「城戸プライベートリザーブ キュヴェ・アカリ2011」は、シルクのような滑らかさと品格ある香り
「城戸プライベートリザーブ キュヴェ・アカリ2011」は、シルクのような滑らかさと品格ある香り

 一本のワインが生まれるまでには、さまざまな物語がある。Kidoワイナリー代表の城戸亜紀人さんは、山梨大学の大学院でワインを学ぶ頃、長野県塩尻市の桔梗ケ原産のワインと出会う。日本ワインの可能性を確信した彼は、「この地で世界に挑戦できるワインを造る」と心に決めた。

 桔梗ケ原にあるワイン会社を経て、2004年に同じ桔梗ケ原で独立。この時、納得できるワインができた暁には、「プロジェクトK」と名付けることを目標に据えた。これまで完成したのは、たった2度である。

 11年は天候に恵まれ、完熟したブドウを仕込むことができた。黒スグリやスパイスの香りが複雑に溶けあい、ひと口飲めばヴェルベットのような質感にほれぼれする。ワインには、まな娘の名が贈られた。逡巡の末に、「プロジェクトK」とするのを見送る決断をしたのだ。それでも、「アカリ」に込めた深い愛情と品質への自信は、裏ラベルに彼が記した文章から伝わる。日本ワインの実力を示す一本なのは間違いない。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年7月17日号