きゃしゃな体に細い腕を持つその女性は、たくましい農夫のイメージとは程遠い。けれども、3.6ヘクタールの農園で汗を流し、ブドウを慈しむ毎日を送る。それが山梨県北杜(ほくと)市にあるワイナリー、ドメーヌ ミエ・イケノの代表、池野美映さんだ。

 もともとは編集者だった。転身を決めて、2001年に渡仏。寝食を惜しみ勉強を続け仏国家認定の醸造士となった。06年に帰国した池野さんは、「仏国のおいしいワインの造り手と同じことをやろう」と考えた。雨量や日照量を丹念に調査して、南アルプスをのぞむ標高750メートルの八ケ岳山麓に畑を開く。立ち上げたのは、自ら育てたブドウだけで造るワイナリーだ。仏国では「ドメーヌ」と呼ばれ、日本では10軒ほどしかない。

 彼女が目指すのは、ブドウが育った土地とその年の天候が思い浮かぶワインだ。とろりとした質感と驚くほどの果実味、それを支える酸味。ミエ イケノ シャルドネ 2013(白)を口にふくむと、温暖な13年の気候と同時に、丘陵地の冷涼な空気を感じられる。

(監修・文/鹿取みゆき)

週刊朝日 2015年7月10日号