9条について、若夫婦が「明確に戦争を放棄した平和な国! 戦争なんてしない方がいいに決まってる」と喜ぶ場面では、曽祖父が厳しい顔でたしなめた。

「戦争を放棄さえすれば、戦争がないと思っとるのか? 国を守る『自衛権』とそれを行使する軍隊を管理する規定は、やはり憲法の中で明確にしておいた方が望ましいのじゃよ」

 漫画は終始マイルドなトーンで一貫していて、一読しただけでは自民党の強いメッセージを感じることはない。その理由について船田氏は、

「この漫画では『憲法とは何か』という、基本的な部分を描きたかった」

 と、なんとも控えめだ。

 漫画を一読して、自民党の深層心理が映し出されていると分析したのは、憲法学者で首都大学東京准教授の木村草太氏(34)だ。

「『絵画療法』という精神療法があります。絵を描いて自分の深層心理を知るというものですが、今回、漫画として描いてみたところ、自民党は現行憲法への愛に気づいてしまったのです」

 安倍首相があんなに憎々しげに語っているのに?

「『押しつけ憲法』をアピールしていますが、憲法の欠陥を指摘するには至っておらず、このように変えなければという積極的な提案もありません。ここで指摘している環境権が気になるのなら、改憲ではなく法律をつくればいいだけのことです。自衛隊の国際貢献にも一応、言及していますが、多国籍軍の空爆への参加などは提案されていない。9条の内容で問題ないと言っているようなものです」

 木村氏は漫画のラストシーンに注目する。近所の丘の上で初日の出を見る一家。曽祖父が2歳のひ孫に、話しかける。

「憲法っていうのは、その国の在り方なんじゃよ。現行憲法では男女平等が大きく謳(うた)われて、事実この70年で女性の地位は向上した」――。盛んに問題点を指摘していた曽祖父が言うのだから、違和感がある。そして若夫婦の妻が言う。「日本っていい国よね」

「現行憲法下で生きている女性が、日本の良さを再確認している。今の憲法で問題ないと認めているようなもの」(木村氏)

 この指摘に、前出の船田氏は、

「現状を肯定しているのではなく、孫にとってすばらしい国にするために、憲法改正は避けては通れないということを描きたかったのですが……」

 と、歯切れが悪い。安保法制の議論を控えた今、各方面への“気遣い”が、はからずも現行憲法への無自覚な尊敬(リスペクト)を引き出してしまったのか……。

週刊朝日 2015年5月29日号より抜粋