2005年に独立して弁護士ドットコム株式会社を設立した元榮太一郎代表。現在は法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」のサービスも行っていますが、さまざまな相談が寄せられるといいます。今回のテーマは「介護」。相談内容を見ていきましょう。

■認知症の家族が線路ではねられ遺族が賠償するのですか?
【相談内容】
 ニュースでこんな判決が報じられました。この判決は妥当なのでしょうか。

<家を出て徘徊していた認知症の男性(当時91)が線路内に入り、列車にはねられて亡くなった。この男性の遺族に対し、「事故を防止する責任があった」として、約720万円を鉄道会社に支払うよう命じる判決が出された。

 男性は要介護4。身の回りの世話は、同居する当時85歳の妻と、介護のために近所に移り住んだ長男の妻が担っていた。この男性が外に出たのは、長男の妻が玄関先に片付けに行き、男性の妻がまどろんだ、わずかな間のことだった。

 事故で上下線20本が約2時間にわたって遅れた。鉄道会社は、振り替え輸送の費用など損害約720万円の支払いを求め、提訴。判決は、死亡した男性には「責任能力がなかった」とし、遺族のうち男性の妻と長男の2人に賠償責任を認めた>(朝日新聞2013年9月27日付記事から抜粋)

【回答】
 この判決は介護する側にとって非常に厳しい判決と言えます。

 判決では、妻が男性から目を話した部分をとらえて、妻に過失があるとして、損害賠償を命じている。妻は一瞬であっても認知症の夫から目を離さず、監視し続けなければならないという非常に重い義務を負わされていると感じざるを得ません。このような義務を果たすには、認知症男性を家に閉じ込める措置を講じなければならないとも思えます。

 ただ、この事件の控訴審では、損害賠償額が第一審の半額に減額されました。

 認知症の家族への監督義務を怠ったと裁判所が判断したとしても、「介護体制を整えて、適切に介護をする努力をしていた」という事情があれば、損害賠償額が減額されるケースはあるのです。認知症の家族を適切に介護することは、裁判で介護者に有利に考慮されることにもなるのです。

週刊朝日 2015年3月13日号