ジャーナリストの田原総一朗氏は、今後安倍首相が進める「戦後レジームからの脱却」に民主党は対案を出すべきとこう語る。

*  *  *

 民主党の海江田万里代表が辞任を表明した。野党第1党の党首が落選したというのは、今回の衆院選の野党のふがいなさを象徴している。

 野党もマスメディアも、安倍首相の作戦に見事に乗せられ、安倍首相の思惑どおりの選挙戦の展開となった。

 安倍首相は、「7~9月のGDPの伸び率が年率にしてマイナス1.6%と予想外に落ち込み、2015年10月に予定していた消費税の2%増税が無理なので、18カ月先延ばしにしたい。そのことで国民の信を問うために衆議院を解散する」のだと表明した。そのために、アベノミクスの成果を問う選挙だということになり、民主党をはじめ野党各党は、それぞれにアベノミクス批判をぶち上げた。だが、突然の解散ということもあってか、どの党も批判が精いっぱいで、アベノミクスに代わる自党の対案を出すことはできなかった。

 もっとも、政権奪取を考えない野党は批判だけでもやむを得ないのだが、政権奪回を狙うべき民主党には具体的な対案が求められた。だが、残念ながら対案らしいものは示し得なかった。しかも、政権奪回を狙うと言いながら、候補者も定数の半数にも満たない198人しか擁立できなかった。

 突然の解散ではあったが、民主党は2年間何をしてきたのか。これでは政権奪回の意欲なしと受け取られても仕方がない。

 話がいささか脱線した。今回の総選挙の安倍首相の目的は、「戦後レジームからの脱却」を実現するため、さらに4年間首相として活動するという保証を取り付けることだった。

 繰り返し記すが、「戦後レジーム」とは、まず、東京裁判史観、つまり日本の昭和の戦争は侵略戦争だったという決め付けであり、2番目が占領下にGHQから押し付けられたとする現憲法である。3番目が対米従属、つまり安全保障や外交に関して米国の言うがままで主体性がないこと、4番目が、これもGHQに押し付けられたとする教育基本法である。

 だが、東京裁判史観からの脱却や憲法改正、日本独自の安全保障の強化などに対しては、国民は少なからぬ抵抗感を持っている。特に戦争を知る世代ほど、危険性ありと強く感じている。そこで安倍首相は、第2次政権からは「戦後レジームからの脱却」という言葉を使わなくなった。もっぱらアベノミクスの実現、経済最優先の姿勢を示し続けている。

 景気を良くし、失業率を低下させ、賃金を上げるという政策には、国民の誰もが警戒感を抱かず、神経をとがらせることなく賛成する。今回の選挙も、その作戦が成功したのだ。

 民主党は3桁の議席を狙いながら73議席にとどまった。だが、安倍自民党の「戦後レジームからの脱却」という大目標に対しては、民主党はアベノミクスに対応するよりも困難がつきまとうはずである。たとえば憲法問題にしても、改憲に賛成から護憲まで、民主党議員たちは、いわばばらばらである。集団的自衛権についても、党としての姿勢は固まっていない。東京裁判史観については論議さえ行われていない。

 野党がしっかりしていないと、自民党は暴走しかねない。その意味で民主党の責任は重大だ。「戦後レジームからの脱却」にどう対応するのか。政権を奪回するには、単に批判をするだけではなく、民主党としての「新レジーム」を構築すべきなのである。

週刊朝日  2015年1月2-9日号

著者プロフィールを見る
田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

田原総一朗の記事一覧はこちら