介護保険制度施行から15年目を迎えた今年6月、医療・介護制度を一体で改革する「地域医療・介護推進法」が成立した。これまでのサービスや負担が大きく見直され、“負担増・給付縮小”とも言える厳しい内容が目を引く。制度開始以来の大改正だ。

 安倍政権は日本の社会福祉をどのようにとらえているのか。

「介護報酬の増減は社会福祉に対する政府の意思の象徴。それを切り捨てて、公共事業を増やし、法人税を下げようとしているのは明確です」

 そう断言するのは民主党の山井和則衆院議員だ。鳩山・菅内閣で厚生労働大臣政務官を務めた。今回、財務省が内部留保を持ち出してきたのは政府の“苦肉の策”だという。

「介護職の処遇改善などの社会福祉を充実させるために消費税を8%に増やしたはず。なのに介護報酬を下げると言いだしたのは、法人税減税の原資と公共事業費を増やしたいから。社福が狙い撃ちされていると思わざるを得ません」

 6月に「介護・障害福祉従事者の人材確保のための介護・障害福祉従事者の処遇改善に関する法律」が全会一致で成立した。つまり介護職の賃上げは、いわば“既定路線”になっている。にもかかわらず6~7割を人件費にあてる介護報酬を引き下げようとしている。それによって多くの介護関係者は、賃下げは免れないと見る。

「だから財務省は『たとえ介護報酬が下がっても、内部留保を使えば賃上げできる』という理屈を考えたわけですよ」(山井さん)

 財務省が各省に予算削減を求めるなどして“蛇口”を閉め、その後に双方が綱引きし合うのが、通常の予算編成のプロセスだ。

「でも財務省の要求に対して塩崎恭久厚労相は言われるがままで、まったく反対しない。本来なら大臣は盾になるべき存在。それが今回の問題でいちばん根が深いこと。厚労省の役人たちは本当に脱力している」

 今、多くの介護関係者は「一部の社福の内部留保を吐き出させることと、介護職の処遇改善は本来別の問題」と異口同音に言う。千葉県松戸市で定員70人の特養「秋桜」を運営する社福の理事の吉岡俊一さんも、

「人材確保が難しい地域では、人手不足で予定したサービスが提供できない施設が多い。なのに『内部留保があるから経営が好調』と判断されて報酬が引き下げられれば、ますます人件費を抑えざるを得なくなり、さらに人が集まらない“悪循環”に陥っていく」

 介護の担い手不足は深刻だ。団塊世代が75歳以上になる25年には、介護職は新たに100万人の増員が必要とされるが、介護分野の昨年の有効求人倍率は2倍近く。業界内での転職が多いとはいえ、男性の平均勤続年数は5.3年と全産業平均の半分にも満たない。

 介護福祉士養成校の入学者も減っている。1990年開校のある福祉専門学校は入学者数が年々減り続け、今年は定員80人に対し、わずか20人。うち9人が留学生だ。校長は肩を落とす。

「介護職がやりがいのある仕事だという認識が、置き去りにされている。少し回復の兆しがあるのに、処遇改善に水を差されたら、また人が集まらなくなるのではないか」

 人材確保が厳しくなると不安を募らせるのは、収支差率11.2%と試算されたグループホームも一緒だ。

 小規模多機能型居宅介護との複合施設「えいむの杜」(静岡市)を経営する橋本直美さん(50)は「まず人件費を削らざるを得なくなる」とため息をつく。

週刊朝日  2014年11月21日号より抜粋