仕事や育児に情熱を傾けた長い年月を経て、ようやく訪れる“第二の人生”。定年後に心機一転、新しい土地へ住み替えるならば、田舎か都会か、一体どちらが適しているのだろう。

 人口減にあえぐ地方では、都会からの移住を歓迎するムードに溢れている。民間シンクタンクの矢野経済研究所が昨夏に実施した、1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)の築10年以上の戸建てに暮らす、子どもが独立した60~75歳の男女へのインターネット調査でも、実現性は別として、4割強が「住み替えたい」と考えている。だとすれば、引っ越し先は田舎がいいのか、それとも都会か。

 興味深いデータがある。矢野経済研究所の同じ調査で「住み替え先の条件」を複数回答で募ったところ、断トツは「駅・病院・役所・買い物などの場所が近い」で、実に6割以上が利便性を最重視していた。引っ越し当初は元気でも、次第に体力はなくなり、病気にもなる──そんな不安が透ける。

 ちなみに静岡県下田市の伊豆の海を一望できる高台の中古住宅に移住した井田一久さん(66)と真知子さん(55)夫妻宅は最寄りのバス停まで徒歩30分以上。3年前に一久さんはパーキンソン病を発症した。

「震えなどの症状が強くなれば、運転は難しくなるし、妻も運転が苦手。でも伊豆は好きで、NPO法人の活動も続けたい。電車やバスの便がいいところに住み替えるつもりです」(一久さん)

 茨城県笠間市、里山の田園の中にどっしりと立つ平屋に住む中野裕司さん(68)夫妻も“終のすみか”とは考えていない。

「運転ができなくなれば無理。子どもがいないわれわれは周りの人にできるだけ迷惑をかけないためにも、医療機関が多く、公共交通機関が整備された都会に軸足を移すことになるはず」(裕司さん)

 いずれにしても「足の確保」はシニア世代の住み替えのポイントになりそうだ。

週刊朝日  2014年10月24日号より抜粋