「織田裕二のドラマを観たい、と言ってくださる方がいることは、とても有り難いですけど、そういう人たちのためだけに作品を作ろうという気持ちはないです(苦笑)。むしろ、そういう期待を裏切りながら、違った満足を与えていけるものにしたい」

 自分ではない役を演じる“俳優”という職業でありながら、織田裕二はいくつになっても“スター”の輝きを持ち続ける、希有な存在である。長いキャリアの中で、いくつかのホーム的な場所はあるはずなのに、常にアウェーな状況で挑んでいることが、俳優としての鮮度を失わない秘訣なのかもしれない。19日からスタートするWOWOWドラマ「株価暴落」では、メガバンクの審査部審査役を演じるが、その板東という役には、彼のファンが期待するようなヒーロー性は皆無だという。

「池井戸潤さん原作の社会派ドラマで、主役といっても、いわゆるエンターテインメント作品におけるヒーロー像とは真逆のところにいるんです。僕がこれまで演じてきた役は、現場で自分の知恵と肉体を使って戦うプレーヤーが多かったんですけど、今回は、言ってみればコーチの立場ですね。こういう企業の中間管理職的な立場というのが、いかに苦悩し、葛藤し、我慢を強いられるものかということを、演じながら思い知らされています(苦笑)」

 私腹を肥やすために巧みに立ち回る同僚もいる中で、「融資の要諦は回収にあり」を信条とする板東は、織田さん曰く“真っ白な役”。職業や性格、生い立ちは違えど、そうやって常に何者かと戦っている感じは、これまでに彼が演じてきた役にも通じるものがある。

「俳優としては常に戦うことを求められているのかもしれないですね(笑)。でも、世の中にいろんな戦いがある中で、『株価~』ほど、企業戦士の孤独が浮き彫りになる戦いは、滅多にない。大人のドラマなので、普段なら幅広い世代に楽しんでもらえるように演じるところを、今回は“わかる人にだけ楽しんでもらえればいい”と割り切っているところもありますね。ただ、僕も小さい頃、田宮二郎さんが主演していた『白い巨塔』を、親と一緒に夢中になって観ていた記憶があって……。ストーリーをちゃんと理解していたかは怪しいんですけど(苦笑)、田宮さんの表情を、観終わったあと、いつまでも覚えていたんですよ。意味がわからなくても面白いことってあると思うし、このドラマが、若い世代にとってそういう作品になってくれたらいいな、なんて期待もあります」

 役者をやる上で一番の喜びは、現場のスタッフや視聴者から、いいリアクションを得られたときだとか。

「今回も、“織田裕二なんて知らない”という人に、作品を面白がってもらった上で、“あの役者も、なかなかいいじゃないか”って思ってもらえたら」

週刊朝日  2014年10月24日号