名古屋大の赤崎記念研究館の前で喜びに沸く教職員や学生。天野教授は学部の「半導体工学特論」など講義も担当する (c)朝日新聞社 @@写禁
名古屋大の赤崎記念研究館の前で喜びに沸く教職員や学生。天野教授は学部の「半導体工学特論」など講義も担当する (c)朝日新聞社 @@写禁

 ノーベル賞を受賞した3氏の出身大学や教鞭を執る大学では、垂れ幕を掲げたり、学長が記者会見を開いたりと喜びに沸いた。少子化で大学の学生獲得競争が熾烈になるなか、ノーベル賞を志願者増につなげようという思いも見え隠れする。

 名古屋大のキャンパスにある「赤崎記念研究館」は、受賞者の赤崎勇さんの業績を顕彰したものだ。赤崎さんは名大工学部教授時代に青色LED関連などの特許を取得し、大学に特許収入をもたらした。天野浩さんが卒業し、現在教授を務めるのも名大だ。

 これまでノーベル賞を受賞した日本人は22人。出身大学は東大7人、京大6人、名大3人といった順だが、21世紀に入ってからの13人で見ると東大と名大が3人で並んでトップ。しかも、赤崎さんのように教官経験者まで含めると、13人中約半数の6人が、名大にゆかりのある人物だ。

 名大の濵口道成総長は今春の大学院入学式で、ノーベル賞受賞者の名前を列挙して誇らしげに語っていた。

「野依良治先生、益川敏英先生、小林誠先生、下村脩先生。ノーベル賞を受賞された4名の先生方の業績は、名古屋大学の自由闊達(かったつ)な学風が生み出したものともいえます」

 一方、赤崎さんが卒業した京大は、自然科学分野のノーベル賞受賞者6人の母校。卒業生ではないが、iPS細胞を作った山中伸弥iPS細胞研究所長が勤めるなど、ノーベル賞に強い印象がある。赤崎さんの受賞が決まると、山極寿一総長はこうコメントした。

「本学の自由の学風が、このような栄誉に少しでも寄与することができたとすれば、大変喜ばしい」

 中村修二さんの母校、徳島大は、香川征(すすむ)学長らが会見を開き、中村さんの博士論文が青色LEDの研究だったことを紹介。この論文を大学内のギャラリーに展示することも明かした。工学部の担当者はこう語る。

「産学官共同の研究課題推進が功を奏した特筆すべき例になりました。地方の大学が注目されたことにより、受験生が増加することを期待しています」

 また、赤崎さんが教授を務める名城大は、東海地区の私立理系ではトップだが、全国的な知名度はそれほど高くない。同大広報の中村康生さんは、ノーベル賞効果への期待を口にする。

「全国的な知名度を上げるチャンスだと思っています。90周年を迎える2年後に、ナゴヤドーム前に新キャンパスをつくり、外国語学部を新設予定です。本学で研究と院生への論文指導を行う赤崎教授のノーベル賞受賞で90周年事業を盛り上げ、志願者が増えてほしい」

 実際に、ノーベル賞受賞による志願者増はあるのか。教育ジャーナリストの小林哲夫さんは、こう予想する。

「東海地区の受験生で、天野先生が取り組む半導体工学に関心がある人は、東大や京大ではなく、名大を目指すのではないでしょうか。工学部は人気が出て、倍率や難易度が上がると思います」

 また、駿台予備学校進学情報センター長の石原賢一さんは、こう語る。

「京大や名大はともに難関大学ですし、徳島大は地方の大学ですから、あまり影響はないと思います。ただ、名城大の志願者は増えるでしょう。08年に益川敏英博士がノーベル物理学賞を受賞した直近は、教授を務める京都産業大の志願者が増えた例もあります」

 ノーベル賞受賞の裏で、大学関係者たちの皮算用も始まっている。

(庄村敦子)

週刊朝日  2014年10月24日号