漫画家のつるけんたろうさん(36)は、2008年に広島県尾道市に移住、空き家を無償で譲り受けて生活している。その顛末を8月、『0円で空き家をもらって東京脱出!』(朝日新聞出版)にまとめ出版した。

 東京でバイトをしながら漫画を描く生活を続けていたつるさんは、「モヤモヤと襲ってくる重圧と焦り」に背中を押され、妻(37)とともに移住を決めた。

 坂道と虫の襲来とに格闘しながら、自力で壁にしっくいを塗り、くみ取り式トイレを改装し、一つひとつ、暮らしを作り上げてきた。

 移住全般でつるさん夫妻を助けてくれたのが、同市で空き家を再生する活動をしているNPO法人・尾道空き家再生プロジェクト(通称・空きP)だ。

 代表は豊田雅子さん(40)。07年に「空きP」を設立、09年からは同市の「空き家バンク」も市と共同で進めている。これまでに120戸が空き家バンクに登録され、約80戸の空き家がゲストハウスやアトリエなどに生まれ変わった。

 つるさんも、今では空きPの重要メンバーだ。ゲストハウスの店長をしたり、卓球場を開いたり。自作のグッズを販売する店も開く。

「田舎だから静かに暮らすのかなぐらいのイメージしかなかったんですけど。でも、ここへ来たら豊田さんを始め、だれも放っておいてくれなかった」と笑う。

「住むところなんて全国よりどりみどり。居場所なんて全国どこにでも『余ってる』んですよ。都会でモヤモヤしている人には、それを知ってほしいです」(つるさん)

週刊朝日  2014年10月10日号