肉まんパワーで強敵も撃破 (c)朝日新聞社 @@写禁
肉まんパワーで強敵も撃破 (c)朝日新聞社 @@写禁

 初土俵からわずか5場所目の秋場所で、1横綱2大関を倒すなど、モンゴル旋風を巻き起こした逸ノ城駿(いちのじょう・たかし/21)=湊部屋。立ち合いに変化した相撲では一部親方から批判も受けたが、左上手を引いて胸を合わせたときの強さは圧巻で、格上力士を次々と投げ飛ばした。

「場所中はモンゴルからマットンボーズ(肉まん)を空輸し、朝、解凍して15個食べていたようです。ちゃんこなど日本食も苦にしませんが、やはり郷土料理のパワーは大きかった」(相撲担当記者)

 モンゴル出身の関取は、これまで数多く誕生している。ただ、横綱白鵬や元横綱朝青龍らが首都・ウランバートル出身なのに対し、逸ノ城は首都から西に450キロ離れたアルハンガイ県の出身。遊牧民の家に育ち、羊や馬などの家畜を飼いながら、草原を移動生活していた。

「馬のミルクを飲み、羊を食べながら育ったようです。時にはオオカミなどの外敵から家畜を守ることも。当時は視力が5・0あったというウワサです」(相撲関係者)

 16歳ですでに185センチ、120キロの立派な体格で、高校ではモンゴル相撲と柔道を経験していた。2009年暮れ、高校相撲の名門、鳥取城北高校の石浦外喜義(ときよし)監督(53)が同国を訪れ、20人ほどいた子どもの中から、逸ノ城をスカウトした。

「おとなしかったけれども、性格が素直。がっちりした体格で鍛えれば伸びると思った」(石浦監督)

 10年春に鳥取城北高に入学してからはメキメキと力をつけ、2年生の高校総体で団体優勝。だが3年生では個人3位で、角界入りはかなわなかった。

 卒業後はコーチとして高校に残り、全日本実業団選手権で個人優勝。晴れて湊部屋(元湊富士)に入門し、14年初場所、幕下15枚格付け出しでデビューした。

 モンゴル出身の先輩力士への出稽古が実を結び、幕下、十両での4場所の成績は36勝8敗。秋場所では41年ぶりとなる新入幕の金星獲得の快挙も成し遂げた。

 11月の九州場所は東前頭10枚目から、横綱・大関と総当たりする前頭筆頭あたりまで昇格することは確実。大草原から来た怪物はどこまで強くなるのか。

 相撲ジャーナリストの杉山邦博氏はこう見る。

「192センチ、199キロの恵まれた体格に加え、スピードもあり、左上手を引いて胸を合わせれば負けないという型ももっている。初入幕でもあれだけ落ち着き払って相撲をとれるように、精神力も強い。ひざや足首の故障さえなければ、来年の前半には大関、九州場所では一気に綱とりも期待できるでしょう」

 横綱白鵬に敗れた後、「もっと稽古して力をつけたい」と語った逸ノ城。

 旋風は当分やみそうにない。

週刊朝日  2014年10月10日号