地元の自治会長、山本浩さん(79)は、「あそこから遺体が出たという時点で(すぐ近くに住む)君野容疑者が怪しいなと、直感的に思った」と話す。今夏には、猛暑の昼下がりに泥酔し、アパート近くの大通りのバス停で寝っ転がっていて、警察官が駆けつける騒ぎも起こしていた。住民たちからは「危険人物」「トラブルメーカー」と呼ばれ、地元では広く知られた存在だったというのだ。

 君野容疑者は、現在の鹿児島県南九州市で育った。幼いころに両親が離婚。関西で仕事をする父親とは疎遠で、高校卒業まで祖母と暮らしたという。高校では、アマチュア無線部とテニス部に所属していた。高校卒業後は陸上自衛隊に入隊したという。

 南九州市の育った家を訪ねると、草木が生い茂り廃墟(はいきょ)と化していた。近所の人は、当時を振り返る。

「高校の中では優秀な学科にいた、ごく普通の子。報じられている知的障害は聞いたことがない。自衛隊にも入っているし、そんなことはなかった」

 だが、数年で自衛隊を辞めたようで、強制わいせつ容疑で逮捕された過去もある。その前後の詳しい経歴と足取りはよくわかっていない。

 遺体発見現場近くのアパートに引っ越してきたのは、昨年6月ごろ。ホームレスの支援団体による斡旋(あっせん)とみられる。一度だけ、君野容疑者の部屋に入ったことがあるという同じアパートの住民によると、室内にはパソコンがあり、

「FX取引をやっていると話していたので、パソコンを見たら、出会い系の女の子にメールを書いていました。出会い系メールの着信もようけあった」

 君野容疑者は、会員制交流サイトに実名で登録し、顔写真をアップロードして、「だれか友達になって下さい」「友達欲しい」と書き込んでいた。別の中国系の友達探しのサイトにも「結婚相手メルトモ募集」と書き込むなど、退廃的な生活の中で病的な人恋しさがにじむ。

 酒を飲んで徘徊する、経歴不詳、職業不詳、私生活もナゾだらけの君野容疑者。捜査線上に浮かんだのは早かった。

週刊朝日  2014年10月10日号より抜粋