坪井:「『飲みもの』を進化させることで、『みんなの日常』をあたらしくしていく。」という、ブランドの約束を掲げています。ドイツからきたビールを日本ならではのモノづくりで日本の食卓で身近なものにし、日本のビール文化を生み出してきたのもそうです。清涼飲料ではペットボトル入りの「午後の紅茶」もそうですね。紅茶は世界中で飲まれていますが、こんなに街中でペットボトルで紅茶を飲んでいる国って日本ぐらいかもしれません。そういう、お客様の日常の中に新しい飲料の居場所をつくることを目指しています。

長友:ニュースで、クラフトビール(小規模な醸造所でつくるこだわりのビール)のブランドを立ち上げると報道されていましたが、それも同じ文脈でしょうか。

坪井:そうですね。まずインターネットサイト限定で発売して(編集部注:初回は完売)お客様のご意見を聞きながら完成させて、来春、代官山と横浜工場にオープンするブルワリーの併設店舗で飲んでいただけるように計画中です。

長友:それは楽しみです。最近は若者のビール離れとか言われるし、第3のビールみたいな低価格路線が主戦場になるしで、ビール好きとしては悲しかったんです。ビールメーカーの老舗として原点回帰する感じですか?

坪井:進化というべきかもしれません。ビールも、時代の空気や文脈によってヒットする商品が違うと考えています。ハイボールが登場して若者に洋酒が受け入れられたように、「仕事、お疲れ様、乾杯!」だけでないビールの新しい文脈が求められているように感じます。今年は「一番搾り」にも力を入れているんですが、「一番搾り」こそがすごく手作り感のある、モノづくりの思想あふれるビールです。クラフトビールとアウトプットは全然違うものですが、キリンが得意とする、丁寧なモノづくりと創意工夫という心根は通底している。そういう部分も大事にしたいですね。

週刊朝日  2014年8月22日号より抜粋