西武元監督の東尾修氏が、大谷翔平選手の“二刀流”の相乗効果について、持論を展開する。

*  *  *

 日本ハムの大谷翔平が一流の階段を上り始めたな。先発して球速160キロを連発し、9回でも159キロなんて、今までの日本人投手にはいない。試合の中で、力を入れるところと抜くところが少しずつ分かって、勝てる投手になってきた。

 大谷は1メートル93センチの長身でありながら、体を非常に柔らかく使えている。昔は、長身の投手は大成するのが難しかった。関節が硬く、体の使い方も器用さを欠いたからだ。私が現役時代の1970年代から80年代は、投手の平均身長は1メートル75センチ前後。今は平均で1メートル85センチ前後になっているんじゃないかな。食生活の変化で体は大きくなり、長身選手も下半身から上半身への力の伝達がうまくなった。時代の変化を大谷に感じるね。

 でもそれだけでは、球速160キロは出ないよ。私は爆発的な球速を生む理由は「腰と肩の回転の速さ」にあるとみている。まず、昨年よりも下半身をしっかりと使えるようになったことで、より大きなパワーが上半身にいくようになった。そこから腰と肩が鋭く回転し、腕が付いてくる。下半身から来たパワーを腰と肩で増幅させ、腕の振りで発射するイメージだね。上半身だけに頼ったフォームじゃないから、速球は球速だけではなく、スピンが利いてキレも出ている。

 腰と肩の回転力は、“二刀流”の相乗効果だとみている。打撃でも腰の回転が大事。打者として打撃練習を繰り返すことで、投手専任ではできない並外れた回転力を得られたのではないか。ミートもうまい。柔軟なハンドリングは、投手としてのしなやかな腕の使い方にも表れている。

 私も西武監督時代のキャンプで、投手の練習にティー打撃を採り入れていた。しかも、肩口から「大根斬り」をする形で打たせていた。腰のキレを出すこととともに、大根斬りによって投手の腕を振る時と同じ肩の使い方になり、肩周りの柔軟性を出す狙いがあった。もちろん、バランスを整えるため、左右両打席でやらせたよ。大谷の場合は、本格的に野手の練習を連日こなしているわけだから、より高いレベルになるよな。

 二刀流が是か非かの論議がある。だが、私は、どちらかに専任するのは、まだ先でいいと考えている。常識を覆すためには、タブーにも挑戦しなければならない。

 彼は休日の外出も控えているという。グラウンド外の誘惑に負けず、野球に専念する姿勢も素晴らしい。体力のあるうちは、二刀流を続けたほうがいいと思うし、どちらかに絞る時が来たら、自分が好きなほうをとればいい。ただ、メジャーリーグで「世界一」の選手を目指すなら、投手が近道だとは言えるけどね。

 一つアドバイスを送るとすれば、球種を無理に増やさないことだ。大谷は20歳になったばかり。体は成長過程にある。手先で操る球種よりも、特長である腰と肩の回転で投げる球種にさらに磨きをかけたほうがいい。速球、スライダー、フォークボール。今ある球種の精度を上げてほしい。

 西武監督時代、松坂大輔(現メッツ)にも、「早くから完成したらつまらない」と言った。球種を増やし、打ち取り方を覚えると、小さくまとまってしまう可能性がある。相手が研究してきて壁に当たると、新しい球種に頭がいきがちだが、長い目で見れば成長を阻害する可能性もある。小手先に走らず、大きな発想で伸びていってほしい。

週刊朝日 2014年8月1日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら