原発事故の影響や集団的自衛権など国内でも、多くの問題を抱える日本。作家の室井佑月氏は「今の大人たちのやるべきこと」ができていないと憤慨する。

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 テレビを観ていて仰(の)け反(ぞ)ってしまったよ。あたしが観たのはテレ朝のニュース。ニュースではこういっていた。

「原発事故による風評被害の払拭に向け、政府は、修学旅行先として福島のモデルコースを設定し、全国の学校に提案することなどの強化策をまとめました」

 起きたまま夢を見てしまったかと思った。だが、違った。その後、6月24日付の毎日新聞の朝刊に、「復興庁 風評対策で強化指針 『美味しんぼ』問題受け」というおなじ内容の記事が載っていたもん。

 福島県では子どもたちに甲状腺の検査を受けさせ、2次検査で穿刺(せんし)吸引細胞診を受けた子どものうち90人が悪性または悪性疑いとなり、51人が摘出手術を実施し、50人が甲状腺がん確定となったという。

 このことについて福島県は、過剰診断じゃないかといっているが、「被曝影響の解明の仕方については今後、検討する」ともいっている。

 つまり、放射能の影響かどうかまだわからないといっている。

 あたしはなぜ、全国の子どもたちをわざわざ福島へ連れていかなきゃいけないのか理解できない。

 
 逆じゃないの? 福島の子どもたちを、被曝の影響があるかどうかまだわからない場所から、一時でも避難させたほうがいいのでは……そういう考えになぜならない?

 事故当時よりはずいぶんマシになったとはいえ、まだ汚染水は漏れているし、まだ放射性物質も漏れている。そして、一歩間違えばさらなる大事故につながるといわれている燃料取り出し作業をしている最中だ。

 政府は福島へいって(住んで)「大丈夫」という人間が増えれば、それが真実だっていいたいのか。

 だとすれば、健康被害を受けたといっている少人数の人間は、嘘をついていることになるのか。大丈夫じゃなかった人には、大丈夫じゃなかったということが真実だろう。

 政府の意見が正しいことの証明に、子どもを使うのはやめてくれないかな。大丈夫であることの証明に、子どもを使うって野蛮すぎる。

 大丈夫じゃなかった人たちはなぜそうなったのか……そこの部分の追及・解明に命をかけることこそ、今の大人のやるべきことだとあたしは思う。

 集団的自衛権に対してもそうだよ。日本の若者も血を流さないと?

 まず先に、どうすれば日本の若者が血を流さずにすむのか。そこに命をかけることこそ、今の大人が頑張ることだろ。

 そういえば集団的自衛権の閣議決定案には、公明党の意向を踏まえ、

「紛争が生じた場合にはこれを平和的に解決するために最大限の外交努力を尽くすとともに(中略)」

 という文が新たに明記されたとか。そんなこと当たり前だと思っていたが、当たり前のことが当たり前でなかったりするから。

週刊朝日  2014年7月18日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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