安保法制懇の報告書提出を受け、記者会見する安倍晋三首相=5月15日午後6時34分、首相官邸、山本裕之撮影 (c)朝日新聞社 @@写禁
安保法制懇の報告書提出を受け、記者会見する安倍晋三首相=5月15日午後6時34分、首相官邸、山本裕之撮影 (c)朝日新聞社 @@写禁

 悲願の集団的自衛権の行使容認に向けて号砲を鳴らした安倍首相。行使容認こそが平和への道と強調するが、友好国への救援は日本が再び戦禍に巻き込まれる怖さもつきまとう。安全保障政策の第一人者で、2004年5年間、内閣官房副長官補として安全保障と危機管理を担当した柳澤協二氏(67)が、集団的自衛権をめぐる議論の落とし穴を語った。

 今回、安保法制懇が政府に出した提言には「集団的自衛権の行使は、6条件を全て満たすことが前提」と記されている。いわば“歯止め”だ。(1)密接な関係国が攻撃を受ける(2)攻撃された国から要請がある(3)放置すれば日本の安全に大きな影響が出る、とした上で、行使にあたっては(4)首相が総合的に判断する(5)国会の承認を受ける(6)攻撃を受けた国とは別の国の領域を自衛隊が通る場合は、その国の許可を得る──、となっている。しかし、自衛隊の活動範囲については一切触れられていない。派遣される地域が際限なく広がる可能性は残ったままだ。

 柳澤:「歯止めをかけるなら最低限、地理的な範囲を限定することが必要。たとえば『日本周辺において』とか。世界中どこで何が起こるかわかりませんから、地域を限定するのは必要なことです。でも提言には書いていない。

 仮に米国がウクライナで軍事行動を始めたら、それは国際秩序の破壊につながることへの対応ですから、米国が日本に『集団的自衛権を使えるようになったんだろ。サポートしてくれ』と頼むこともあるかもしれません。そうなると日本は断れないですよ。断ったら日米同盟にひびが入る。

 ウクライナだってシリアだって、米国が本気で介入に乗り出せば、地理的な距離が遠くても日本はお付き合いしないといけなくなる。集団的自衛権の行使容認というのはつまり、日本が米国に『何でもします。どうぞ言ってください』というのと同じなんです」

 皮肉なことに集団的自衛権行使を容認すれば、対等な日米関係どころか、対米依存が強まりそうだ。

 柳澤:「集団的自衛権を行使してほしいという他国からの要請を断ることもできるとしていますが、助けを要請されているのに断るとなったら政治的なダメージは計り知れない。他国からの反発もあるでしょう。結局、集団的自衛権は歯止めが何もきかなくなってしまう。

 また一度でも行使されれば、活動範囲は拡大していくでしょう。ベトナムと中国での領土問題をめぐる対立がより深刻な状況になり、『日本は出せるじゃないか』と言われて日本が出撃して中国と戦闘になれば、中国は沖縄にミサイルを撃ち込む大義名分ができる。そんなリスクを冒してまでやるんですか、と言いたい」

週刊朝日  2014年5月30日号より抜粋