昨年末、本誌編集部はある映像を入手した。そこには、シンドラー社製エレベーターの新たな「不具合」の様子を映した、衝撃の映像が収められていた。

 映像は、東京都小平市にある公営住宅のエレベーターの天井に設置された防犯カメラが映したもの。そこに映った内容をもとに、当時の様子を再現する――。

×  ×  ×
 2013年1月25日、午後5時すぎ。若い母親と小学生くらいの子供2人が、1階に停止していた住民用のエレベーターに乗り込んだ。男の子が慣れた様子で「5F」のボタンを押すが、エレベーターは扉が閉まったまま、いっこうに動きださない。

 数秒が経ち、男の子が再びエレベーターの副操作盤の行き先階を押す。表示板には上に向かう矢印が出ているが、カゴは動かない。ひとまず外に出ようとした母親が不審そうに「開」ボタンを押すが、何の反応もなし。約20秒後、ようやく扉が開いた。3人は事態をのみ込めない様子のまま、足早にエレベーターを後にした。

 ……親子が画面から消えてから、わずか1、2秒後。無人のエレベーターが突然、上昇を始めた。一瞬のことでよくわからなかったが、コマ送りで確認すると、エレベーターはなんと、扉が開いた状態で動き始めていた。カゴは約1メートル上昇して停止し、扉もゆっくり閉じた。そして、エレベーターは静かに2階に移動。そこで、何事もなかったかのように扉が開いた。
×××
 映像を見たシンドラー社のある社員は、苦々しい表情でこう語り始めた。

「この映像、持っているのですか。これは社内でもトップシークレットになっているもの。扉が開いたままエレベーターが動いてしまう『戸開走行(とかいそうこう)』という、非常に危険な現象です。シンドラー社製のエレベーターで起きた過去2回の死亡事故も『戸開走行』でした。あと少し親子が脱出するタイミングが遅れていたら、大変なことになっていたかもしれない」

 あと一歩で大事故となりかねない、危険な事態が発生していたのである。短期間で2度も死亡事故を起こし、万全の再発防止策をとっていなければならないはずのシンドラー社製エレベーターで、なぜ再び「戸開走行」が発生したのか。

 前出のシンドラー社員は、驚くべき実態を明かした。

「シンドラー社のエレベーターは以前から閉じ込めや誤作動などのトラブルが多発し、メンテナンス担当者も対応しきれないほどの状態に陥っています。利用者を乗せたまま扉が開かなくなる『閉じ込め』が毎日のように起きているし、カゴの異常停止や、カゴと床との間に段差が生じるなどのトラブルが1日に3件ほど起きている。他社と比べて頻度が高く、異常な状態と言わざるをえません」

(ジャーナリスト・今西憲之、本誌・小泉耕平、福田雄一)

週刊朝日 2014年5月30日号より抜粋