現在の歌舞伎界に欠かせない「名脇役」が片岡亀蔵さんだ。歌舞伎座新開場となった昨年は、ひと月も休むことなく舞台に引っ張りだこだった。そんな亀蔵さんを支えたのが、ふたりの母校、青山学院の校友会のパーティーで知り合い結婚した妻の明美さん。ご夫婦にインタビューしたところ、亀蔵さんの意外なこだわりが見えてきた。

明美:私がパーティーの司会を務めて、主人が歌舞伎俳優ということでゲストだった。その後、すぐに博多座での公演があって、福岡で再会したんです

亀蔵:福岡で芝居がなかったら、結婚していたかどうか。縁があったんでしょう。それまでは毎日、友だちと会って、飲んだり食べたりしていたんですが、40歳を迎えて、そういう生活にくたびれてきた時期でした

明美:結婚するまでは、家でごはんを食べたことがなかったって言うんですから

亀蔵:子どものときは、家で食べてたよ(笑)。ときには遅くまで飲んで、朝までに酔いをさまして舞台に立つということもあったんですが、「一生、このままの生活は続けられない」と限界を感じてました。そういうときに出会って、魔が差したというか(笑)

 
明美:結婚してから生活が大きく変わったのは、夕食の支度です。主人の仕事が終わる時間にもよりますが、舞台が遅く終わる月は家で食事をするんです。だいたい、夜の9時から晩酌を始めて、夜中の2時まで。毎日、日本各地から取り寄せた玄米を五分搗(づ)きに精米して土鍋でご飯を炊きます。おかずは先付けから始まって8品は作りますね。主人は料理へのこだわりが強いので、まずは素材を見て、それから何を作るか決めるんです

亀蔵:たとえば蛸(たこ)を見て、これは刺し身で日本酒ヒヤでとか、カルパッチョで白ワイン、はたまた煮蛸で熱燗(あつかん)かな――と料理に合わせてビールの次のお酒も決めていく

明美:友だちには「毎日、8 品も作るの大変じゃない?」って聞かれますが、主人が素材を見て、味付けをどうするか決めて、味見もしてもらうので、ぜんぜん大変じゃないです。それでおいしくなかったら、向こうの責任(笑)。でも、生姜(しょうが)や山椒(さんしょう)とか、香りがきついものがダメみたいです。大人の味が分からないのかしら?

亀蔵さん:いやいや、たとえばうなぎに山椒をかけてしまうと、山椒の味しかしなくなってしまって、うなぎ本来の味が分からなくなっちゃうから

明美:結婚する前から、健康管理の面も含めて食事は大変だろうなと想像はしていましたが、本当に「食」が好きな主人です

週刊朝日  2014年5月23日号より抜粋