仮想通貨ビットコインの私設取引所を運営するMTGOX社が経営破綻した。信頼性を失えば日銀券(日本の紙幣)もビットコインと同様に暴落すると、モルガン銀行東京支店長を務めた藤巻健史氏が警告する。

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 通貨というものは、使う人の信頼を得ることによってのみ存在しうる。金との兌換(=だかん、厳密に言えば、円は米ドルと一定のレートで交換でき、米ドルは米中央銀行が金に換えてくれること)を放棄したのにもかかわらず、人々が日銀券を使っているのは、日銀を信用しているからだ。

 その信用は、「金融オペレーション」(金融政策に基づいて市場に流すお金の総量を調整することなど)と「資産内容の健全性」の二つに由来している。

 紙幣とは、もともと「持参すれば法定通貨に替えますよ」という銀行の約束手形のようなものだったから、発行体は、なにも中央銀行でなくてもかまわない。現に英北部スコットランドでは商業銀行であるスコットランド銀行の紙幣も流通しているし、香港でも同様だ。要は、発行体に対して人々の信頼があれば通貨として機能し、なくなればその価値は失墜するという話だ。昔の藩札、軍票であろうと、ビットコインであろうと、それは変わりはない。ビットコインにその信頼性はあるのか?

 通貨の発行体には、通貨発行に伴って利益が転がり込む。紙幣を印刷しさえすれば無限の利益を得られるから、とてつもない特権である。国の機関である中央銀行なら、その利益は国民に還元されるし、富を得るために無限に貨幣を発行することもないだろう。だから心配はいらない。ビットコインの場合、その巨額の利益は誰の手に転がり込むのか? 発明者? そう考えていくと、ビットコインは到底、信頼することはできないのだ。

 無限に発行されるリスクはない? 資産内容は健全? これらが否定されれば貨幣の価値が暴落する? ……日銀さん、ビットコインの二の舞いにだけはならないでくださいね。

週刊朝日  2014年3月21日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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