膨大な借金を抱える日本。しかし、ここ最近は「プライマリーバランスの黒字化」という言葉によって、財政問題に関して楽観論が蔓延していると、“伝説のトレーダー”藤巻健史氏が分析する。

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 プライマリーバランスの達成とは国債費(国債の元本返済と利子支払い)を除いた収支が均衡することだ。税収とその他の収入で、政策にかかる経費をすべて賄える状態を示す。国債費は計算から除かれているのだ。別の言い方をすれば、プライマリーバランスが達成されても、その年の決算は国債費、つまり借金の元本を返済したり利子を支払ったりした分だけ赤字ということだ。

「財政再建の第一歩が始まった」とは、累積赤字が減り始めて、そこで初めて言えるはずだ。莫大な借金を抱えた家計を考えれば自明である。借金が増え続けるならば、いずれは金利支払いに押しつぶされて自己破産だ。

 そこで先の臨時国会の最中、NHKの生中継入りの参院決算委員会で「(プライマリーバランスが黒字化すると国際公約をした)2020年度に国債費はいくらになるか」を聞いてみた。いまの22兆円からどの程度増えているのか聞きたかったのだ。

 甘利明経済財政相の答弁によれば、今年8月に出された内閣府の試算では43兆円だそうだ。今年度予算の赤字は45兆円だから、単年度の赤字額は現在と同程度だ。それは累積赤字が今と同じペースで増え続けることを意味する。

 長期金利のレベルなど試算の仮定を聞くだけの質問時間はなかったが、私が想定するより、かなり低めだと想像する。私がトレーダーになった1980年の長期金利は9%だったのだが、その仮定での試算結果など、怖くて聞けやしない。

 ということは「累積赤字が減り始める」のは、はるか先。未来永劫減り始めないかもしれない。それどころか甘利大臣は「15年度のプライマリーバランス半減はなんとか道筋が描けていますが、そのあとは道筋さえ描けていません」と答弁した。末恐ろしい。

週刊朝日  2013年12月27日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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