成立した特定秘密保護法。政府は国民に十分な説明をせず全く安心させてくれないと感じている作家の室井佑月氏は、官房副長官の言葉に思わず、こんな声を上げた。

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「賛成か反対の意見を強いるのではない。でも、傍観して自分の意見を言わないことは中立とは言えず、権力に力を与え続ける暴力行為だ」

 これは国際基督教大学2年生の小林叶(かなう)さんの言葉だ。小林さんは12月6日、「秘密保護法を考える全国学生緊急大集会」を企画して開いた。そこでの言葉。なんでも300人もの学生が集まったとか。

 良いこというね。あたしもそう思う。

 特定秘密保護法が6日の深夜、参議院本会議で採決され、賛成多数で成立した。参議院の本会議の前には、衆議院本会議があったわけで、その時は今ほどマスコミは騒いでいなかったような気がする。

 話し合いが参議院に移ってからだ。ぎゃあぎゃあ騒ぎ出したのは。前からわかっていたことなのに、反応が遅すぎやしないか。

 国際基督教大学の小林さんがいうように、そういったマスコミの動きの悪さが、権力にさらに力を与える暴力行為になっているとあたしは思う。7日になされた朝日新聞の全国緊急世論調査によると、76%の人々は国会審議が十分ではないと答えていた。

 だわな。ぜんぜん秘密の中身が見えてこないもん。今のままではどうして駄目で、なぜこんなに急いでこの法案を通さなきゃいけなかったのか。きちんと説明してくれた議員はいなかった。テレビに出てくる識者も。

 問題点が出てくると「これからやる」という。秘密は秘密で、疑問は疑問のままだ。

 6日付の東京新聞の夕刊に、「秘密がこれ以上増えれば、私たちの暮らしはどうなるのか」という沖縄と福島の人々の声が載っていた。特定秘密保護法案に反対する人たちの声だ。

<沖縄では安全が不安視されるオスプレイが上空を飛び交う。「抗議して写真を撮れば『防衛機密だ』とされ、ゲート前に座れば『テロ活動だ』と言われることになる」と懸念する>

 福島の方も、今でさえ原発の情報が十分に伝わらない現状に不満をもっているのに、この法案について、「怖い。国民に目を向けてない法律だ。国民を守るためにある憲法を変えるための過程じゃないのか」と感じたという。

 この国は、福島第一原発事故後に緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム 「SPEEDI」の情報を、「国民を不安にさせてはいけない」と隠したぐらいだからね。んじゃ、国は国民を安心させるにはどういうことを考えているかというと、

「ある人に『特定秘密保護』という法案の名前が良くないんじゃないかと言われた。昔『後期高齢者』という名前で大変怒られたことがあるが、言われてみるとそうかもしれない」(加藤勝信官房副長官)

 こんなこと。信じらんない。どひゃー!

週刊朝日 2013年12月27日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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