文筆家・北原みのり氏は、人気の「佐川男子」について、こう口惜しがる。

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「佐川男子」という言葉が定着して久しい。クロネコの穏やかさ、優しさ、誠実さとは対極にある(ように見える)、飛脚の世界。青と白のストライプのシャツで走り回り、男の汗臭さをぷんぷんさせ、過酷な労働環境にも耐え抜く精神力と強靭な肉体を兼ね備えた男たちに「エロい!」と最初に声をあげたのは、私です。と、言い切ります。

 通販業務を営んでいる私にとって、20代の頃から最も多く関わってきた男と言えば、佐川急便、ヤマト運輸、郵便局、ペリカン便……と物を運ぶ男たちです。そして20年前から、佐川急便の男たちが最も肉体的に優れていた。どこよりも阿漕(あこぎ)に値段交渉をし、しかも時間指定をお願いすれば「金を払えば時間は守る」と言い放つ強い佐川(法人向け荷物に限り時間指定に追加料金を求めるのは佐川だけ)。日本男子から失われて久しいハングリーさは、佐川急便にしかもう残されていないのだ……と私は確信したものでした。

 が……いつ頃からか世の中の女たちが佐川急便飛脚の色気に気がつきはじめ、「佐川男子」という言葉が定着してしまいました。そして……哀しいかな、名付けられることで今、佐川急便の色気が急速に下落しはじめています。というのは、佐川急便自身が「佐川男子」であることの自意識を持ちはじめてしまったから!

 ここ1、2年で私は飛脚の危機にうすうす気がついていたのですが、先日その危惧は確信に変わりました。いつも弊社にやってくる飛脚が、コロンをつけはじめたのでした。「まいどっ!」と男らしく肩に荷物を抱えてやってくる飛脚(ゆうパックの人はこんなことしません)。カレが部屋に入ってきた瞬間、むんわ~と、ムスク系のコロンが充満したのでした。彼が去った後もしばらくは残る強い香り。そしてその飛脚といえば自信たっぷりに、オレをご覧よこのオレを……な自意識を振りまいていくのです。

 色気とは無自覚な仕草からうまれるもの。自覚した色気とは、ナルシシズムでしかない。この日本に残された男の色気、最後の砦だった佐川男子がこうやって消えていくのが、私は残念でなりません。

週刊朝日 2013年12月6日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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