加齢による肌の老化。クレオパトラの時代から世の女性たちを長年悩ませている問題だが、RDクリニック顧問の北條元治氏(49)は、2030年には肌の再生医療が「当たり前」になり、若返りが可能と語る。

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 お肌のしわやたるみなど老化のしるしが気になってきたら、若返りのために肌の再生医療を受ける。2030年代にはそれが当たり前のこととして受け入れられるようになるでしょう。たとえば、成人や卒業・就職などの節目に、将来に備えて自分の肌の細胞を冷凍保存しておくのが、健康やアンチエイジングに関心が高い男女のたしなみになっているかもしれません。

 人間の肌は年齢を重ねると弾力を失い、しわやたるみが目立つようになります。肌の張りやうるおいのもとは、真皮に含まれるコラーゲン線維やエラスチン線維、ヒアルロン酸などですが、加齢によって、これらを作り出す肌細胞(真皮線維芽細胞)が減少し機能も低下します。その結果、真皮層が薄くなり、弾力を失ってしまうのです。

 そこで、あらかじめ自分の肌細胞が元気なうちに冷凍保存しておき、必要に応じて培養します。これを老化した真皮に移植補充すれば、またコラーゲンなどの成分がさかんに作られるようになり、老化した肌が修復、つまり治療されるというわけです。

 この技術は、やけどなど皮膚の損傷時に用いられる再生医療と共通のもので、必ず自分の細胞を用いますから、副作用やアレルギーの心配がありません。また、採取した肌細胞はマイナス196度で半永久的に保存でき、繰り返し使用できます。ただし移植した肌細胞も、もともとあった肌細胞と同じように徐々に減少するので、定期的な補充がベターです。

 美しい肌によって外見を保ち人生を積極的に楽しむのは、健康に長生きするうえで大切なことです。今はたばこをやめたければ禁煙外来があり、脱毛症やED(勃起障害)など、かつては「年をとればしかたのないこと」とされていた症状が医療の対象となっています。いずれも効果的な薬や治療法が開発されたからです。肌の若返りも、医療として社会に受け入れられるのではないでしょうか。

 肌はみな遺伝によって性質が異なりますから、自分の肌細胞が必須となります。いわば100%オーダーメードの医療で、現状では培養技術者がすべて手作業で行っています。当然、高額です。肌細胞を培養する過程の一部でも自動化・機械化できれば大幅にコストが下がり、普及を後押しするでしょう。細胞培養の自動化には、現在国を挙げての支援も行われており、実現すれば日本のものづくりの新たな星となるはずです。

 信頼できる技術を提供する細胞培養・保管会社や医療機関は公的認証により品質を保証されるでしょう。安全で信頼性の高い肌の若返りを目当てに、近隣諸国から観光を兼ねて来日する人たちが増える。そのような時代が来ると思います。

週刊朝日 2013年8月30日号