都内の雑貨店では50種類を超える耳掃除グッズが売られていた。先端部分もさまざまだ(撮影/写真部・植田真紗美)
都内の雑貨店では50種類を超える耳掃除グッズが売られていた。先端部分もさまざまだ(撮影/写真部・植田真紗美)

 世の中には風呂上がりの耳掃除が毎日の楽しみ、という人も多いのではないだろうか。耳鼻科などでは耳垢(みみあか)が詰まることを「耳垢塞栓(じこうそくせん)」といい、これによって難聴や耳痛、頭痛、めまいなどが起こることがあるという。しかし、だからといってやみくもに耳掃除をすればいい、というものでもないらしい。東京都目黒区の笠井耳鼻咽喉科クリニック・自由が丘診療室院長の笠井創医師は次のように話す。

「成人は、過度の耳掃除で外耳道の炎症を招き、自浄作用が低下して耳垢塞栓になることが、実は少なくありません。耳掃除のやりすぎはよくないのです」

 ここで少し耳の構造などに触れておきたい。耳は体の外側に近いほうから「外耳」「中耳」「内耳」に分かれる。耳介(じかい・外の部分)と鼓膜の間を外耳、鼓膜とその奥の隙間を中耳という。鼓膜は音を空気の振動としてとらえて内耳へと伝える再生可能な器官だ。内耳には、平衡感覚を得る三半規管や、音を感じるカタツムリの形をした蝸牛(かぎゅう)などがある。

 耳垢は、外耳道にある耳垢腺と皮脂腺から出る分泌物に、はがれた表皮細胞、毛、ほこりなどが混ざったものだ。体質的に分泌物が多いとベトベトした耳垢に、少なければ粉状の耳垢になる。日本人の約6割は粉タイプだ。混合タイプもある。

「耳垢がたまりやすいかは、耳垢の性質のほかに外耳道の形や大きさ、湿疹や外耳炎などの有無、生活環境など、さまざまな要因が関与しています」(笠井医師)

 笠井医師によると、子どもでは外耳道の大きさが不十分なために耳垢がたまりやすく、高齢者は外耳道の自浄作用が低下するので耳垢が積もることが多い。

 国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科・杉浦彩子(さいこ)医師の報告では、高齢者の2割に左右どちらかの耳に耳垢塞栓がみられる。耳垢塞栓による難聴で聴覚の刺激が減り、認知機能が低下する可能性もあるという。

 耳垢塞栓にはなりたくないが、風呂上がりの耳掃除ほど気持ち良いものはない。この葛藤をどうすれば……と悩んだ末に、「耳かき評論」をホームページで掲載中の加賀耳鼻咽喉科クリニック(東京都千代田区)院長の加賀達美医師を訪ねた。

「綿棒は、直径3ミリぐらいの赤ちゃん用を使ってほしい。太すぎると耳垢がとれないだけでなく、垢を奥へ押し込んでしまう。外耳道に触らないよう1センチほど奥に入れ、周りをぬぐうように引き抜くのが理想的です」

 この方法なら毎日掃除しても大丈夫だという。綿棒ではなく「耳かき派」も、小さいサイズを用いるのが基本だ。一度使ったら殺菌石けんできれいに洗わねばならず、家族でも使い回しは厳禁という。

「歯ブラシと同じと考えてほしい」(加賀医師)。なお、耳かきの反対側に付いているフワフワした「梵天」も、多量の耳垢を押し込むため、使わないほうがよい。

週刊朝日  2013年7月26日号