「大体のものは、牛乳を入れると美味しくなる」と話す俳優の古田新太さん。牛乳好きが災いして、起こした問題とは…。

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 おいらは毎日、1Lの牛乳を飲む。確実に飲む。おいら達おっさんは、お腹がゆるいのに絶対に飲む。毎日、いっぱいお酒を飲むのと、この牛乳1L攻撃でいつも下痢である。しかし止めない。30代の頃、この牛乳の飲み過ぎで、90kgを超える程太ってしまい、お医者さんに「いい加減にしてください」と言われた。それでも牛乳を止めなかった。お蔭様で今は痩せてきたが、決して体を壊して痩せた訳ではない。

 しかし何なのだ牛乳の美味しさって。牛の乳でしょ。人間の乳ってのは、売ってないでしょ。美味しかったら「人乳」として売るはずだと思うのね。それが売って無いという事は、そんなに美味しくないという事だよ。美味しくて売り物になるなら、搾乳して売るみたいな、女性の内職のような仕事ができるような気がする。「犬乳」「乳」「豚乳」なんてのも無いしね。ヤギとかラクダとかの乳を飲む民族もいるが、やっぱ牛乳でしょ。

 20代、おいらは大阪に住んでいて、東京での仕事の時、劇団の先輩である渡辺いっけいさんの家に転がり込んでいた。いっけい先輩は本当にやさしい人で、おいらが無類の牛乳好きと知って、泊まる初日に、1Lパックの牛乳を冷蔵庫に入れてくれ「いつでも飲め」と言ってくれた。ちなみに、いっけいさんは牛乳が飲めない体質だった。翌日、おいらは東京に彼女ができ、1カ月先輩の家に帰らなかった。久しぶりに戻ると、先輩はおいらの目の前で、ヨーグルトのようになった牛乳をぼてっと流しに捨てながら「俺、牛乳がこんな事になるなんて、初めて知ったよ」とのたまった。ありがとう先輩。やさしさってこういう事だよな。

週刊朝日 2013年4月19日号