首相官邸で2月5日に開かれた経済財政諮問会議の終了後、会議に出席していた日本銀行の白川方明(まさあき)総裁が記者団に向かって、任期途中で辞任する意向をいきなり表明した。

 衝撃は大きかった。日本の金融政策を注視していた投資家の間では、「安倍官邸vs.日銀」の第2幕が始まったとの見方が広がっている。この日だけで、円はドルに対して1円以上も円安に振れたのだ。

 これには「白川総裁が意に反して『クビ』になった」という解釈も影響したという。なにしろ日銀は、安倍晋三首相の看板政策である「2%の物価目標(インフレターゲット)」に対して当初、真っ向から批判していたほどだ。安倍政権の強烈な圧力にようやく折れたと思ったのもつかの間、その後も「やる気なし」との声が上がるような政策しか講じなかった経緯もある。

「白川さんは怒っているはず。日銀も怒っていると言っていい。政治が職権を越えて他人の城に手を突っ込み、強引に横車を押したんですから。それでも公には口にしないところが白川さんらしい」(日銀幹部)

 途中辞任は怒りの表現、すなわち「無言の抵抗」だと受け取ったわけだ。中央銀行(日本では日銀)は政治から独立し、通貨や物価の安定を図る組織だ。そのトップが政権と対立し、任期をまっとうできないのは、金融界から見れば、かなりの異常事態なのだ。

 日銀が怒っているなら、官邸も怒っているようだ。突然の辞意を白川総裁から直接聞いた安倍首相は思わず、「はあ?」という表情をしたそうだ。「総理は辞任話を事前にまったく聞かされていなかった。こんな辞め方は失礼でしょう。白川総裁は、どこまでプライドが高いのか。最後までよくわからない人でした」(首相周辺)。

 もっとも日銀側に言わせれば、「自分で圧力をかけて辞めさせておいて文句を言うとは、『逆ギレ』もいいところ」(日銀関係者)。

週刊朝日 2013年2月22日号