文字通り昭和が遠くなった。在野の近現代史研究家である鳥居民(たみ=本名・池田民)氏が1月4日、心筋梗塞(こうそく)で死去した。84歳だった。

 鳥居氏は、日本の大転換期である1945年の出来事を、宮中や戦地、庶民の暮らしに至るまで1日ごとに区切って追いかけた『昭和二十年』(草思社)シリーズで知られる。

 1985年に刊行された第1巻は、1月1日午前7時に、長野県の女子学生たちが陸軍造兵廠(しょう)で夜勤を終えたところから始まる。出来事の因果関係を重視し、場面は時代を行きつ戻りつし、昨年6月に最新刊である第13巻を出版した。

 が、そこで書き終えたのは「昭和20年7月2日」まで。もともと年齢を考えれば、12月31日まで執筆するのは難しいとみられていたが、せめて終戦の「8月15日」をどう描くか読んでみたかったとの声が上がっている。

 出版元である草思社で、第1巻から担当編集者だったのが前社長の木谷東男(はるお)顧問(62)だ。

「最後にお会いしたのは昨年12月10日。編集者らでつくる文学賞で、『昭和二十年』が特別賞を受賞し、その授賞式があった時です。とてもお元気で90歳までは書き続けられるかなと思っていたのですが……」

 鳥居氏は7月後半までを描いた原稿をワープロに残しており、「14巻として出せないか検討中」(木谷氏)だという。近くお別れの会が予定されている。

週刊朝日 2013年2月8日号