首相のブレーンとして安倍政権の金融政策を支える「ミスター円安」こと浜田宏一・エール大学名誉教授。白川・日銀総裁の東大時代の恩師だが、浜田氏はこれまでの日銀を痛烈に批判している。

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 リーマンショック前は、1ドル=100~110円台だったドル・円相場は、一時75円台まで円高が進みました。20~30%も高くなっているのです。一方、例えば韓国ウォンは、積極的な金融緩和を行ったことで、ドルに対して20~30%も安くなりました。

 このため、韓国企業と競争した場合、リーマンショック前と比べて日本企業は60%程度のハンディを背負うことになってしまったのです。昨年、半導体大手エルピーダメモリが倒産しましたが、「日本銀行がエルピーダをつぶした」と言ってもいいと思います。ソニーやパナソニック、シャープなど、日本を代表する輸出企業も世界の販路を失い、衰退しつつあります。

 この結果、驚くことに、製造業の活動状況を示す鉱工業生産指数は、リーマンショックの震源地であるアメリカや、イギリスよりも、日本のほうが落ち込み幅が大きくなってしまったのです。デフレはより深刻化してしまいました。

 日本も他国の中央銀行と同様に、短期国債だけでなく、長期国債、株式、社債など、幅広い金融資産を素早く大量に買うべきだったのです。治す薬を持つ医者がそれを出さなかったのと同じ。日銀は、そのことに対して責任を感じなくていいのでしょうか。

 日銀が責任を持たなくなってしまったのは、行き過ぎた独立性があるためです。「失敗したくない」「責められることはしない」という官僚的な意識があるのかもしれません。

週刊朝日 2013年2月8日号