投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表、藤巻健史氏が特例公債法案の修正は愚行だと苦言を呈する。

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 民主党が提案した特例公債法案の修正案について、民主、自民、公明3党が11月13日、合意した。「15年度までの4年間は赤字国債の自動発行を認める」という内容で、一般会計予算案が成立すれば、特例国債法案が成立しなくても自動的に赤字国債発行が認められるという内容だ。

 とんでもない! 昔、電車の運転士が、「ATS(自動列車停止装置)がしょっちゅう鳴るのでうるさい」と電源を切っていた。その結果、警戒警報が鳴らず、運転士の注意不足による追突事故を起こした――というニュースがあったと記憶している。今回の愚行は、まさにそのATSの電源を切ったに等しい。

 財政法ではやむを得ない場合のみ、社会資本建設の「建設国債」を認めている。

 今回問題になっている赤字国債の発行など、とんでもない話なのだ。とんでもない赤字国債を発行するのだから、「政府は大いに苦しんで、なんとか国会に理解してもらい、例外的に1年だけさせてもらいなさいよ」という話なのだ。

 その「発行などとんでもない」はずの赤字国債が2012年度の当初予算では38.3兆円も発行されようとしている。この金額は「租税及び印紙収入」の42.3兆円に匹敵するほどだ。

 先人の知恵などどこ吹く風で、その赤字国債を今後しばらく無条件で発行できるようにするのである。どうせ日本の政治家のことだから15年度以降も、このルールは継続するだろう。まさに警戒警報を鳴らすATS機能を封印したに等しい。

 抜本的解決ができないから、警戒警報のスイッチを切ってしまい、一時的に安堵感を得ようなど、日本の財政状況と政治は末期的である。

週刊朝日 2012年11月30日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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