日銀が10月30日の金融政策決定会合で、2カ月連続の追加金融緩和を決定した。これについて、投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める藤巻健史氏は「極めて危険だ」と指摘する。

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 財政法第5条は、日銀の「国債引き受け」を禁止している。過去にハイパーインフレを起こしたからだ。「国債引き受け」とは日銀が直接的に国から国債を買い取ってお金を渡すこと。日銀の「国債買い増し」との差は、国債の取引で市場を通すか否かだけで、実質的な違いはさほどない。

 不況脱却のために、日銀が「大規模な買いオペ(注)か引き受け」をして紙幣を刷りまくればよいと主張する人は、ハイパーインフレの怖さがわかっていない。高層ビルの50階で火事に遭った人に向かって、「焼死したくないなら窓から飛び降りろ!」とアドバイスするのは適切なのか?

 財政破綻という最悪の事態が起きたなら、政府・日銀は「大規模な買いオペか引き受け」しか選択肢はないだろう。政府機能がマヒしては困るからだ。しかし、だからと言って、今それを日銀に強いるのは「高層ビルから飛び降りろ」と主張しているのと同じである。そのことだけは頭に入れておいて欲しい。

*注:「買いオペ」とは日銀が国債を金融市場から追加的に買い増し、新しく刷ったお金を市場に渡すこと。

週刊朝日 2012年11月16日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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