混迷が続く社会や、収束の見通しがたたない原発事故。“憂鬱な時代”を生きる術や知恵について、詩人の加島祥造氏(89)と、東京大学教授の姜尚中氏(62)が自由に語り合った。中でも昨今の子どもの自殺問題について、その原因はポテンシャリティー(潜在的可能性)の喪失にあるという。

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姜:先生自身は89歳まで生きていることを、いいとか悪いとかいうことを超えて何か感じるところがおありでしょうか。

加島:この年になってまだ自分の中からポテンシャリティーが出てくる。それに気付いたのは大きいね。しかも、そのポテンシャリティーは僕だけじゃなく、みんなが持ってるものなんだよ。

姜:最近、子どもの自殺が問題になっていますが、自分で死を選ぶのは、そのポテンシャリティーがなくなったと感じてしまったからなんでしょうか。

加島:そのとおりだと思う。ポテンシャリティーがなくなったと感じたときに、生きがいがなくなる。生きがいがなくなると、いちばん安定性があるのは「死」なんだから、そっちに行くことが、ちっともイヤじゃなくなるのかもしれない。「生きる」ことイコール「不安定」だから。

姜:死ぬことが怖いことでなくなる……。

加島:そのほうが楽になると……。私は母権論者なので、どうも母と子の関係に目が向く。いじめのことはよくわからないけれど、親が子どもの自由をリスペクトして、つまり勝手にやらせる。そうすれば、子どもは自分のポテンシャリティーを少しずつ伸ばしていけるような気がしますね。経験から言ってね。

週刊朝日 2012年10月5日号