すべてのがんのうち5%をも占め、日常生活に不可欠な部位に発症するがんといえば、頭頸部がんだ。なじみは薄いかもしれないが、多くの場合、喫煙・飲酒の影響を受けるため、約9割が男性に発症する。ロックシンガーの故・忌野清志郎さんの喉頭がんも、今年逝去したヒゲの殿下こと寛仁さまの咽頭がんもその一種だ。今回は、なかでも症例数の多い咽頭がんの対処法を探る。

 頭頸部がんとは、顔面(頭蓋底=とうがいてい)より下、鎖骨(さこつ)の上までの範囲を指す、おもに耳鼻咽喉(じびいんこう)科領域の部位で発症するがんの総称だ。

 この部位には呼吸、飲食、発声、味覚などの、人が生きていくうえで不可欠な機能が集中しているため、単にがんを取りのぞくだけでなく、いかに機能を残して、日常生活に支障をきたさないように治療するかが重要だ。

 石川県在住の会社員、向井和彦さん(仮名・46歳)は、2004年、38歳のとき、頸(くび)の腫(は)れが気になっていた。近所の診療所を受診したところ、風邪によりリンパ腺の腫れが疑われ薬を出されたが、使用して1カ月たっても症状はおさまらず、むしろ腫れが大きくなり、不安になって地元の総合病院の耳鼻咽喉科を受診した。問診や視診などにより、上咽頭がんの疑いがあるとされ、金沢大学病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科を紹介された。

 咽頭がんは、上、中、下に分かれ、発症部位により、危険因子も異なる。上咽頭がんは、咽頭の上部、鼻の奥あたりにできる。そのほとんどがウイルスの関与だといわれ、中咽頭がんはウイルスと飲酒・喫煙が半々、下咽頭がんはほとんどが飲酒・喫煙だという。発生率が少ない上咽頭がんではあるが、若年層にも発症する。発見された時点で7~8割は転移しており、なかには元のがんが見つからない原発不明がんの場合もある。

 向井さんは担当医の同科診療科長・吉崎智一医師による診断で、頸の腫れは、上咽頭がんのリンパ節転移だと判明した。

「向井さんのがんの原発巣(元のがん)は極めて微小だったのですが、すでにリンパ節に転移し、鎖骨の下まで腫れている状態でした。かなりすすんではいたものの、上咽頭がんはウイルスの関与がほとんどのため、化学療法や放射線療法が非常によく効きました」(吉崎医師)

 向井さんには抗がん剤と放射線を交互に実施する交替療法を実施した。向井さんは治療後、経過観察を続け、8年たった現在も再発することなく元気で日常生活を送っている。

※週刊朝日 2012年9月14日号