この冬、Kさん(享年42)と、知的障害がある妹のMさん(同40)の遺体が、札幌市白石区にあるマンションの一室で見つかった。この部屋に暖房はなかった。数年前にはCDを購入したりライブに行ったり、趣味を楽しむ様子もうかがえたというが、その生活は次第に困窮していった。ノンフィクションライターの橘由歩氏が現地で取材した。

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 つまずきのきっかけは2005年1月、妹のMさんに子宮筋腫が見つかったことだった。9月に筋腫を摘出したMさんは仕事を休みがちになり、07年4月からアパートに引きこもって電話にも出なくなる。毎日、様子を見に行っていた福祉施設の担当者は、Kさんに室内に入る許可を請うが、「Mが怒るのでやめてください」の一点張りだったという。

 ようやく許可を得て室内に入った頃には、Mさんは脱水状態になっており、滝川市内の病院に入院した。これを機に同年6月、KさんはMさんの引き取りを決意し、札幌市内のマンションで一緒に暮らすようになった。だがこの同居は、初めから問題含みだったようだ。6月、Kさんから白石区にある障害者施設の相談室に電話が入り、相談員にこう訴えた。

「引っ越してきた妹が食事も水分も薬も取らなくて、滝川へ帰りたいと言ってばかりいる。どうしていいかわからない」

 相談員はまず、Mさんを受診させることにした。病院に付き添ってきたKさんは赤い縁の眼鏡に帽子とおしゃれで、バリバリと仕事ができる女性に見えたという。

「妹さんは意に沿わない形で札幌へ来たことは不満だが、姉と引き離されることにも警戒している様子でした」(相談員)

 相談員はMさんの家庭訪問などを繰り返したが、「私はいいですから」「帰ってください」と強硬に拒絶され、信頼関係を築くことはできなかった。

 2年後の09年秋、Kさんから相談員に、

「めまいがして、ベッドから起き上がれない」

 という電話が入った。相談員はすぐに救急車を呼び、Kさんを病院に運んだ。同時に、Mさんには「お姉さんが入院するので、グループホームに入ってはどうか」と勧めた。Mさんは同意したが、翌日、検査だけで帰ってきたKさんの姿を見て、撤回したという。

 Kさんの家計簿から「給与」の項目が消えたのは、それから間もなくのこと。体調不良で10月に店を辞めたのだ。

 10年末になると家計簿には未払いを意味する「未」や、赤い文字の書き込みが増える。口座の残高が不足し、家賃や携帯電話代などの引き落としができなくなったようだ。

※週刊朝日 2012年7月20日号