日本企業は円高を受けて、続々と生産拠点を海外に移しつつある。自動車産業も例外ではない。投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める、「伝説のディーラー」藤巻健史氏は、トヨタ自動車や日産自動車の現状を鑑みて早急な円高対策の必要性を説く。

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 6月20日付の日本経済新聞1面に、「トヨタが2014年にも余剰能力50万台を減らして国内生産を310万台にする」という記事が出ていた。金融危機前には約390万台を生産していたが、円高の定着で輸出の採算が悪化しているからだそうだ。

 その翌日付の日経新聞には「日産、生産能力15%減」という記事が1面トップとして出ていた。日産も7月から日本国内の車両生産能力を15%削減し、現在の135万台から115万台体制にするそうだ。日産の11年度の世界販売台数は484万台、16年度までに760万台以上にする目標だというが、こうなると日産はバリバリの外国企業だ。

 社長がカルロス・ゴーンというレバノン系ブラジル人で、半数近い株を持っている筆頭株主はフランスのルノー。外国人株主割合は70%弱にのぼっているのだ。そのうえ約85%の車が海外で生産されるのである。新工場の建設で、メキシコでの生産台数のほうが日本での生産台数より多くなるという。日産車に乗っている方はまちがいなく「私、外車に乗っているの」と公言してよい。

 日系企業だろうが外資系企業だろうが、日本人に勤労チャンスを与えてくれる会社こそ、日本人にとって、また日本政府にとってありがたい存在なのだ。円高はその日本人の勤労するチャンスを奪っている。国内に工場がなくなれば、周りのレストランやスーパーはあがったりだ。それこそシャッター通りだらけになる。

 自動車業界のこの「生産の海外移転」のニュースを開いていると、事態は深刻極まれり!だ。早急なる円高対策が望まれる。

※週刊朝日 2012年7月20日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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