17年間にわたって逃げ続けた3人の特別手配犯が逮捕され、オウム真理教事件は終結したかに見える。ところが、今も残る後継教団「アレフ」は若者を中心にじわじわと信徒数を増やしている。

 公安調査庁の調べでは、アレフの信徒数は現在約1300人(「ひかりの輪」に分派した約200人を除く)。昨年だけで、200人以上も増えたという。そのうち6割が35歳未満だ。

 数々の凶悪犯罪に手を染めた教団が、なぜ今も人を吸い寄せるのだろう。「週刊朝日緊急増刊 オウム全記録」に寄稿してもらった識者たちの指摘をもとに考えてみよう。

 宗教学者の島田裕巳氏(58)は、オウムの教義と最近の「スピリチュアル・ブーム」の共通点を指摘し、こう分析している。

《スピリチュアル・ブームのなかには、パワー・スポットへの関心のほかに、ヨガや瞑想修行の実践、さらには、テーラワーダ(上座部=編集部注)仏教の教えを生活のなかに取り入れるといったことが含まれる。もし、オウムが数々の罪を犯すことがなかったとしたら、スピリチュアル・ブームの高まりのなかで、その存在はかなり有力なものになっていた可能性がある》

 島田氏によれば、こうしたブームに関心を寄せる若者たちが、教団に引き寄せられているという。

《地下鉄サリン事件からもすでに17年の歳月が経ち、若者たちはオウムのことをほとんど知らない。世の中はオウムの怖さを強調するものの、後継教団に近づけば、実際にはあたたかく迎えてもらえる。そこから、世間の方が間違っていると考えるようになり、それで入信してしまったりするのである》

 ジャーナリストの江川紹子氏(53)は、信徒や元信徒たちに麻原の魅力を聞いて回った時のことを、以下のように振り返っている。

《一番よく聞かれたのは、「何を聞いてもたちどころに答えを出してくれた」というものだった。もやもやとした不安や不満を抱えた人は、彼から「お前の問題はここだ」と断言され、問題設定から解き方から回答まで、一揃えにして与えられて、心を読まれたように感じる。それは多くの場合、オウムの修行をすれば解脱・悟りを得て問題は解決する、というワンパターンなのだが......》

 オウムの拡大はバブル景気が膨らみしぼんでいく過程と重なっており、「自分探し」が流行した時代だった。だが、若者が"答え"を求める状況は、今も変わらないと江川氏は言う。

《低迷する経済、相次ぐ災害、そして原発事故とその影響など、不安や不信が渦巻く。あの時代以上に、オウムやその他のカルトが跳梁跋扈しやすい状況が整っている、と言えるのではないか》

※週刊朝日 2012年7月20日号