いま世界中のメディアから注目を集めているのが、中国の有力政治家、簿熙来(ポーシーライ)氏(62)の失脚事件だ。重慶市トップの同市党委員会書記を3月に解任されたのに続き、4月10日には共産党の政治局員と中央委員の職務を停止されたと報じられた。
 そのウラには、スパイ小説さながらの"暗殺"事件が関係しているというのだ。
「昨年11月、薄氏の家族と関係が深かった英国人実業家が重慶市のホテルで死亡しました。当初、死因はアルコールの過剰摂取として火葬されたが、不審な点があったため英国政府が独自調査を開始。そうした中、なんと薄氏の妻で弁護士の谷開来(クーカイライ)氏と薄家の使用人が、実業家の死に関与していることがわかったのです。2人は殺人容疑で検挙されました」
 しかも、話はこれだけでは終わらない。この事件の"真相"をいち早く掴んだ側近の王立軍副市長(当時)が薄氏に報告したところ、逆に激怒され、王氏は左遷。身の危険を感じた王氏は2月に亡命を求めて米国総領事館に駆け込み、大騒動となったのだ。
 薄氏が市トップを解任されたのは、この一件の責任を問われてのことだった。
 日本であまり知名度のない薄氏だが、中国に詳しいジャーナリストの富坂聰氏はこう言う。
「政治局は党の最高指導機関の一つで、いわば党の"顔"。薄氏は、薄一波元副首相を父に持ち、以前は首相候補とまで言われたサラブレッドです。07年から党委書記を務めた重慶市では『打黒(マフィア一掃)』『唱紅(革命歌を歌おう)』など文化大革命を彷彿とさせる運動で名を馳せ、全国的な人気を集めました」
 薄氏の強いリーダーシップのもとで、重慶市は「独立王国」とまで言われた。
 確かに「殺人」は重大事件だが、簿氏の失脚には別の理由もあるようだ。
「求心力が落ちている共産党にとって薄氏は貴重な人材。一方、格差のなかった共産主義時代を称賛する『唱紅』は現執行部批判につながるため、政権内では薄氏への不満も高まっていた。中国はたたけばホコリの出る政治家も多く、トップのさじ加減で、政敵を"抹殺"できる。王氏の米総領事館駆け込み事件をきっかけに、狙い撃ちされたのでしょう」(富坂氏)

※週刊朝日

 2012年4月27日号