東北の被災地では、昨年末から仮設商店街や屋台村などが続々とオープン。集う人々の心に明かりをともしている。
 宮城県気仙沼市にある「気仙沼横丁」。夜の帳がおりると、この一角だけ暗闇の中に赤提灯が浮かび上がる。昨年11月、もともと駐車場だった場所に、22店舗が集まってオープンした。被災した経営者だけでなく、震災を機に帰郷して、ここで新たに店を始めた人もいる。隣にはいまだ打ち上げられた漁船が横たわり、半壊した家屋もある中で、屋台村の明かりは復興への道しるべのよう。
 ここに、エビ、イカ、ホタテの"浜"のものと、"卵(らん)"を生地に流し込んで鉄板で焼く「はまらん焼き」を出す「はまらん家」がある。以前の店は津波で全壊。店主の村上勝子さん(64)は、「何もない状態から、100円ショップなどで道具を集めて再開した」と言う。
 同じくこの横丁に店舗を構える「狼煙」。肉のみのメニューで勝負をかける店の名物は「気仙沼ホルモン」。豚の内臓のミックスを味噌やにんにくに漬け込んで味付け。キャベツの千切りと一緒にウスターソースをかけて食べる。一説には下船した漁師が陸では肉を食べたがるので生まれた料理だとか。
 津波で更地になった場所に立つと、つい最近、被害を受けたかのように感じる。
 しかし、一歩一歩前へ進んでいる人々もいる。今、被災地には大小合わせて100カ所近くのプレハブ商店街がある。屋台村などを訪ねるツアーを企画した大手旅行会社もある。
「実際に被災地を見て、痛みを少しでも知ってほしい。先祖代々受け継いできたものや大切な人を、一瞬にして失った姿を、心に留めておいてほしい」
「はまらん家」を営む村上さんはそう話す。

※週刊朝日

 2012年4月27日号