「乳腺に腫瘍ができています。細かな検査をしないと分かりませんが、犬の乳腺腫瘍は約50%が悪性なんです」

 続いて診察室に入ってきたのは7歳のパグ(メス)。鼻の上やわき腹に、蚊に刺されたようなしこりができている。肥満細胞腫という犬の皮膚にできる悪性腫瘍だという。

 日本小動物医療センター附属日本小動物がんセンター(埼玉県所沢市)の小林哲也獣医師がこう指摘する。

「米国では現在、犬やの死因トップはがんです。日本は全国的な統計がなく、はっきりしませんが、米国に近い状況になってきていると思います」

 なぜか。前出の信田病院長は、ペットの寿命が延びたことが影響しているとみている。

「犬が番犬として屋外で飼われていた80年代までは、平均寿命は8~9歳で、フィラリアやジステンパーなどの感染症で命を落とすことが多かった。しかし今は、感染症のワクチンが普及した上に、室内で大事に飼われることが多くなって寿命が延びたため、がんにかかる率が高まったのです」

 ペットフード協会の調べでは、犬の平均寿命は13・9歳(2010年)。確かに長生きするようになってきている。

 精度が高いCT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)で検査するようになったため、がんが見つかりやすくなったという事情もある。

◆犬や猫に目立つ皮膚や乳腺がん◆

 小林獣医師によれば、犬に多いのは皮膚がんや乳腺がん、口腔内がんなどだ。ゴールデン・レトリーバーやフラットコーテッド・レトリーバーなどは、なぜかがんにかかる率が高い。猫は皮膚がんや乳腺がん、リンパ腫などや白血病が多いという。

 がんが増えるにつれて、治療法も進歩してきた。

 四国動物医療センター(香川県三木町)の入江充洋獣医師は、この10年間で抗がん剤など薬の使い方が増えたと指摘する。

「かつてはがんをたたくために大量の抗がん剤を投与する方法のみでしたが、今は少ない用量でがんの増殖を抑え、がんと共存するという考えに変わってきました」

 前出の信田病院長も言う。

「がんによっては、手術で摘出するのではなく、薬だけで消すことができるようになってきています」

 分子標的薬の投与なども人間と同じように行うことが可能になったという。

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