「(山田風太郎賞の)発表の当日は、仕事場近くのホテルのラウンジにいたのですが、まったく緊張はなかったです。受賞の連絡を受けてから徐々に緊張と喜びが出てきました」

 10月21日、小説『ジェノサイド』で第2回山田風太郎賞を受賞した高野和明氏(47)は言う。ちなみに同作は7月、最終選考で直木賞を逃したばかりだった。

「まったく根拠のない"いけるんじゃないか"という予感はありましたが、見事に外れました。今回はその逆。何が起こるかわかりませんね」

 2001年、江戸川乱歩賞受賞作の『13階段』で小説家デビューを飾った高野氏だが、それ以前は、岡本喜八監督の下で映画撮影や脚本を手がけていた。『ジェノサイド』は、「発想を大きくしなさい」という師の言葉どおり、スケールは大きい。父の遺志を継いで新薬を開発する日本の大学院生と、コンゴで戦う米国の傭兵の人生が絡み合う長編エンターテインメントで、監督の教えが小説の随所で生かされているという。

「『観客が無意識のうちに知りたいという情報を常に提示しておけ』という教えがあります。ストーリーを円滑に進めるうえで、読者に知っておいてもらいたい情報を見極めて、そのつど提供するということをずっと意識していました」

 08年には自身の小説『6時間後に君は死ぬ』がテレビドラマ化され、初の監督も務めた。

「人生でいちばんエキサイティングで貴重な経験でした。書いているときとは気分が違う。映像の監督のほうが、戦闘状態ですよね」

 やはり今回の受賞作にも、さっそく映画化の話は来ているという。

「映像にはできないことをあえて本で書いている部分があるので、しっかりと制作費が確保でき、脚本と監督ができるならばぜひやりたいところです」

 小説家としての立場を持ちながら、映像へのこだわりは隠さない。いちばんの夢はと聞くと、
「映画監督です。小説家になってだんだんわかってきたのは、小説と映画を交互に行けたら、とても強くなれる実感があります。物語そのものをつかめるような感覚があるんです」

 映画のアイデアは「たくさんあるが言えない」という。では小説は――。

「細かいところは未定ですが、大枠は決まっており、長編エンタメ小説を考えています。来年に出せれば理想的ですね」 

週刊朝日