出井伸之・前ソニー会長が厳しく注文 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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出井伸之・前ソニー会長が厳しく注文

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 東日本大震災は、わたしは「とどめの一撃」になりかねないと思っているんです。日本はその数年前からひどい「大災害」に遭っていました。

 日本は戦後、平和憲法で軍隊の保有を禁じられるとともに、米国から航空機の製造をはじめ重工業も抑えつけられたことで、民生産業に特化した国になりました。ソニー、トヨタ自動車、ホンダなど輸出産業を育てるまでは産業政策がうまく機能しました。日本は「欧米の工場」として、日本がつくって欧州や米国に売る。この構図で「ミラクル」と言われる成長をしました。

 ところが、インド、中国、韓国、台湾など遅れて「産業革命」をした国や地域が、日本の得意分野を全部持っていきました。日本は新たに打つ手がなくて「延命措置」だけ。1990年代を境にバブル崩壊、アジア通貨危機などに見舞われ、閉塞状態に陥りました。

 インターネットが世の中に普及してから、戦後ソニーが生まれ育ったのと同じように、日本でもネットのなかでさっそうと伸びる会社があってもいいはずです。しかし、世界で活躍する新しい会社が一社もできていない。グーグルもヤフーもユーチューブも日本の会社ではありません。

 もはや日本は、世の中の進歩についていけないところまで落ちぶれてしまったのです。世界のなかで居場所を失ってしまいました。

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 米国はリーマンショックの後遺症もあって経済が伸びていない。欧州は財政問題からEU(欧州連合)が揺らぐほどの危機に瀕している。日本は「孤児」状態で損をしている--出井氏の見立てだ。そんななか、地震が襲ってきた。天災だけではなく、福島第一原子力発電所の爆発という人災にも追い打ちをかけられた。

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 天災プラス人災。それよりもひどいのは、そのときに何が起こったのか、われわれがいまだに知らされていないことです。日本人はいまほど、「政府に裏切られた」と思ったことはないのではないでしょうか。わたしは昭和12(1937)年生まれで戦争中の大本営発表を覚えていますが、それと同じです。

 今回はさらに、行政の動きが遅い。いろんな大臣が「きめ細かな手配」なんて言いつつ、国、県、市町村とバラバラに活動しているからです。なにしろ、政府は東京から、上から目線で見ているし、地元は地元で東京のほうを向いて、東京を再現したがる。これは戦後、行政が一貫して、「東京一極集中」のシステムを続けてきたからです。江戸時代の参勤交代が復活したようなものですね。

 内閣府の試算によれば、道路、空港といった社会基盤や、住宅、工場、店舗といった建物などの被害が16・9兆円にのぼります。問題は、これらが生みだすお金も同時になくなってしまったことです。

 つまり、行政は仮設住宅をつくって電気や水などの供給を復旧させたものの、住民が毎日出勤して給料をもらう会社がなくなってしまったことをどうするのか。将来設計を断たれてしまった人がたくさんいます。そういう人たちはテレビで見ても、
 「先のことはぜんぜん考えたことがない」
 と、投げやりです。生きがいを失ってしまったのでしょう。この人たちに食べるすべをつくってあげるのを忘れてはいけません。

 こうした行政の鈍さは、政治家が育たなかったことが背景にあるのでしょうか。

 いまの2大政党、民主党は企業と労働組合の闘いの労組側、自民党は米ソ冷戦の米国側として存在していました。しかしいま労使協調が主流となり、冷戦構造も崩れてしまったので、どちらにもアイデンティティーがなくなったのです。本来なら選挙が何度もあると新しい党が出てくるはずなのに、それもなかった。

 そのまま来てしまったから、いまの民主党は右から左まで、政治家の百貨店みたいになっています。考え方が違うさまざまな議員がいて、同じ党とは思えない状態ですよね。

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 ただ、出井氏は、今回の震災が衰退する日本の息の根を完全に止めたわけではなく、まだ復活の道があることを再確認できたとみている。まだ消えていない日本の強みがあるからだ。

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 この震災で明らかになった日本の強みは二つあります。ひとつは社会の安定。みんなが助け合ってすばらしいと、世界中から称賛されました。

 もうひとつは大企業です。経団連の中核となっている会社は、自社が海外進出するときに系列の会社を一緒に連れていく。強い軍団を持っているわけです。

 今回もいちばん早く復興したのは大企業の系列の会社だと思います。

 たとえば、日立製作所、三菱電機、NECなどが出資する半導体製造のルネサスエレクトロニクスの場合、被災した茨城県の工場に、製品の買い手である自動車会社の社員も含めた応援要員が一日最大で2500人も入ったそうです。最新鋭の精密工場が震災後3カ月あまりで、一部の生産を再開できました。世界新記録と言っていいぐらいの早さですよ。大企業は放っておいても、それなりに生き残っていく。

 では、社会の安定と大企業という二つの強みを残しつつ、どう復興させるか。

 わたしはいま東北復興ではなく、東京を含めた東日本復興を訴えています。東京でお金を稼いで、それを東北への投資に振り向ける。

 具体的には、9月20、21日に開く「アジア・イノベーション・フォーラム」で猪瀬(直樹・東京都)副知事と対談しますが、それは猪瀬さんが、
 「東京湾に天然ガスの発電所をつくる計画がある」
 と言ったのをテレビで見て、すばらしいと思ったからです。東京を復興の突破口にすればいいんだと。

 これ以外にも、東京についてはアイデアがいくらでも出てきます。政府が特区を設置するなりしてカジノやリゾートをつくり、招致するのは東京オリンピックではなくて東日本オリンピックにして、わたしが好きなF1レースも呼ぶ。

 こうすれば、海外の投資も呼び込めます。東京はまったく新しい魅力的な街になります。もともと料理もファッションも最先端のものがそろっているのですから、アジアでは敵なしになりますよ。

 こうして東京を糸口に復興作業を続けるうちに、大量生産をしている大企業に加えて、東京という足かせから離れて地方独特の文化や伝統に根ざしたユニークな中小企業が生まれてくれば、日本が持っている世界的なブランドをもっと輝かせられるのではないでしょうか。日本はものすごくいい国になると思います。

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 この方策で主役になるのは、GDP(国内総生産)の6割を占める第3次産業(サービス業)と行政だ。この二つの見直しが、復興を超えて日本経済を再建する際には不可欠となる。

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 第3次産業は、トヨタやソニーなど日本を代表する第2次産業(製造業)の大企業に比べると、競争力が低すぎます。東京電力、JR、NTT。みんな地域独占で、日本の民営化がいかに中途半端かも示しています。英国では、通信会社BTグループに対して、政府は株を持っていたとき株主権を行使しませんでした。独立採算ですから。

 それに対して日本では、民主党の幹部が復興財源として、政府が保有するNTTや日本たばこ産業の株を一部売却すべきだとの考えを示しました。本当にびっくりです。筆頭株主はその会社と運命共同体のはずなのに、「株を売る」と言ったら、その会社はどうなると思いますか? 政府が、民営化するわけでもないのに株を切り売りするような会社は、どんな会社なんだと。

 その会社をつぶす気で言っているなら理解できます。日本の政治家はどこまで常識がないのかと思いましたよ。それほどの経済オンチというか、資本主義の根本をわからない人が運営している国は怖い。


●円高なぜ騒がぬ、投機家に怒鳴れ●

 もうひとつ、行政の見直しとしては、21世紀流に中央官庁の再編をすべきでしょう。あるいは、官庁はそのままでも、全省庁の上に横断組織をつくる。中国でいえば、経済政策を一手に握る「国家発展改革委員会」のようなものです。こうした工夫をすれば、政府は速く動けると思います。

 行政は薄いほうがいい。国の出先機関があって、県があって市町村があってと、何重行政にもなっているから動きが遅い。国が本当にすべきことは外交、防衛と金融・財政政策だけです。

 金融・財政でいえば、円がこんなに高くなっているのに、政府はなぜもっと騒がないのでしょう。投機家に向かって、
 「震災でひどい目に遭っているのに円に投機するなんて、どういう商業道徳を持っているんだ! 倫理的にだめだぞ!」
 と、大きな声で怒鳴るだけで、すこしは考え直してくれるでしょう。日本銀行の白川方明総裁が「強力な金融緩和をまさに推進している」(9月7日の会見)と、官僚みたいなことを言っていますが、円高が復興にどれだけブレーキをかけているか。政治家をはじめ日本の国士になる気持ちで発言してくれないと困ります。

 その意味で、野田佳彦内閣には1日でがっかりしました。組閣日(9月2日)の会見で、復興の財源について「政府税調に複数の選択肢を早く示してもらい、与野党で協議していきたい」と言いましたが、やることが逆です。

 5年間の復興費用は19兆円。日本の経済規模からいえば、使いたかったらすぐに使えばいいでしょう。先に復興債を出すと決めて、「税制のことは後から考えよう」と言っても、だれも怒らないと思いませんか?

 行動が第一です。政権批判はめったにしませんが、思ったよりもひどかった。
 復興でいちばん急を要するのは何か、日本をどうしたいのか、まずそれを国民に明確に語ってほしい。

 わたしは、日本は成長する中国に接近するのでも、世界最大の経済国・米国に接近するのでもなく、日本独自の路線を行くべきだと思います。日本が活力ある、諸外国から尊敬される国になるには、自分で自分の道を選ばなければいけない。

 これまでの変化は黒船による明治維新、敗戦による平和憲法と、2回とも外圧がきっかけでした。しかし今回こそ、自然災害や原子力で懲りているから、きちんと選べると思います。 (構成 本誌・江畠俊彦)

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いでい・のぶゆき 1937年、東京都出身。早稲田大学を卒業して60年ソニーに入り、社長、会長を歴任した。2006年にクオンタムリープを設立し、代表取締役CEO(現職)。主な著書に『日本大転換』(幻冬舎新書)


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