中央大学硬式野球部寮に、ひときわ体が大きくなった島袋洋奨(しまぶくろ・ようすけ)の姿があった。

 興南のエースとして春夏連覇に挑んだ昨夏の甲子園大会では、期間中に68キロだった体重が62キロにまで減り、決勝では頬が痩けた状態でマウンドに上がっていた。鬼気迫るあの姿がいまだに鮮明だからこそ、現在の島袋がよりたくましく見えるのかもしれない。

「1年前の決勝の日から10キロは増えたと思います。あの時が異常だったんです。甲子園の暑さは沖縄以上にきつかったですけど、疲労は感じていなかった。ただ、体が重かった。体重は減っているのに不思議ですよね。県勢初の優勝、そして春夏連覇という期待を考えないようにしていても、どうしても意識してしまう自分がいました」

 興南は大会前、優勝の大本命と目され、島袋は世代ナンバーワン投手の呼び声が高まっていた。明徳義塾(高知)や仙台育英(宮城)、聖光学院(福島)といった常連校が居並ぶ難ブロックに入っても、トルネード投法から巧みにアウトを奪っていった。

「春もくじ運は悪かったんですよね(笑い)。でも、相手が名前の売れている高校であればあるほど、気が引き締まるし、負けても胸を張れると開き直ることができました」

 準決勝の報徳学園(兵庫)戦では、2回までに5点のリードを奪われた。序盤にこれほどの失点を喫したのは、最上級生となって初めてのことだった。

「正直、焦りました」

 ベンチに戻った島袋を救ったのは仲間の一言だ。

「今日の試合は後悔している暇はない。前を向こう」

 島袋は立ち直り、チームは報徳に逆転勝利。そして決勝の東海大相模(神奈川)戦を迎えた。興南は4回裏に打者一巡の猛攻で7点を奪い、13-1で勝利した。

「初回にストレートを狙い打たれたので、変化球中心の組み立てに変えました。6回に一二三(慎太)から三振を奪ったツーシームは、高校時代で最高の一球だったと思います」

 2年生の春から4季連続甲子園に出場した島袋にとって、最も印象に残っているシーンは、最後の甲子園で主将の我如古盛次が大優勝旗を受け取った瞬間だという。

「すべての重圧から解放された瞬間でしたから。最高の高校球児生活だったと思います」

 高校卒業後、東都大学野球連盟に属する中央大に進学した島袋は、春のリーグ戦の開幕投手に抜擢された。勝ち星こそ1勝しかあげられなかったが、5試合に登板して防御率は0・99。堂々の数字を残した。

「終盤に失点して勝てなかった試合が多かった。これは初戦敗退だった高校2年の選抜大会、そして夏の甲子園と同じ敗因です。また原点に立ち戻って、終盤に失点しないピッチングを身につけたいと思います」

 甲子園に挑んだ過去の自分と重ね合わせ、大学球界でも活躍できるという自負に満ちた島袋がいた。 (柳川悠二)

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