日本の職人の「極める」姿勢は、多くの日本企業にも当てはまる特徴です。それ自体は素晴らしいことですが、極めることで「タコツボ」化し、狭い領域に入り込む危険性もあります。

 日本には各地に素晴らしい地酒がありますが、タコツボ化すると、横に市場を広げる発想はなかなか出てこない。そこにうまく入り込んだのが韓国の焼酎「眞露(ジンロ)」でした。

 私は眞露をおいしいと思ったことはありません(笑い)。しかし幸運なことに、日本市場にも、さほど品質にこだわらない大衆がいました。「そこそこ」品質とはいえ、大衆に満足されるレベルは備えている。こうして眞露は韓国と日本の”マス市場”を押さえ、焼酎の市場でトップブランドの一角を占めたのです。

 アナログ時代の鍵は、「すり合わせ」の技術にありました。たとえば10本のパイプをつないで長いパイプを作るとき、そのつなぎ目は一様でなく、ぴったりとは合わない部分が出てくる。

 そこで、経験と勘を培ってきた職人のノウハウが生きる。つなぎ目を少しずつ削り、完璧に接合するよう調整していくのです。

 一方、デジタル時代の鍵は「モジュール技術」です。パイプはすべて規格が統一され、削ったり調整したりする職人の技はいりません。この時代の「勝利の方程式」は、大規模な設備投資でそこそこの部品を調達し、より良い製品を安く作ることです。

 ですが、極める文化を持つ日本企業は、狭い領域に走る傾向があり、マス市場があっても入っていこうとしない。狭い市場だけでは、規模の経済が働かない。その結果、思うような設備投資ができず、いい製品を量産できない。これに対して韓国企業は大規模な投資をし、世界中から安いモジュールを大量に調達し、世界的な基準では十分、良い品質の商品を、極めて安く提供できている。

 余談ですが、韓国を代表する料理ビビンパは安くておいしい、モジュール型の食事です。懐石料理やすしなど、高級かつ繊細な日本料理は、たとえおいしくても限られた市場にしか受け入れられません。

 その点、具をかきまぜて食べるビビンパは、繊細な日本的感覚からすると粗雑な料理に思われるかもしれませんが、ご飯は麦飯でもいいし、具も、その土地、季節ごとに安くて新鮮な食材を使えばいいので、途上国の人々にも受け入れられやすかった。これは、韓国企業の製品が新興国にも広く受け入れられている理由とも重なります。

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