人民元をめぐっても、国際的に対中包囲網が作られつつあります。中国はすでに尖閣をめぐる交渉で、米国に対ドル相場での切り上げを約束させられました。表向きは反発の姿勢を示しつつ、すでに元は上昇していて、今後も切り上げが進んでいくでしょう。中国が、経済面でも難しいかじ取りを迫られることは避けられない状況です。

 尖閣事件後の1カ月半で、中国は国際的な信頼や経済的利益など多くのものを失いました。それに比べれば、最初に述べたように、日本が失ったものはほとんどありません。

 ただ、菅首相と民主党は今回の事件への対応を猛省すべきです。密使として訪中した細野豪志氏も、本来であれば第三国で会うべきでした。あれでは、一方的に頭を下げに行ったようにしか映りません。

 菅政権は、「中国」という国が一枚岩でないことを理解する必要があります。

 いま自分が交渉しているのは党中央なのか、地方政府なのか、人民解放軍なのか、商務部なのか。中国の名のもとに、利益の異なる複数の「主語」が存在し、競いあっています。その間をうまく渡り歩いて交渉できれば、いまより有利な立場に立てるはずです。

 構成 本誌・林 恒樹

とみさか・さとし 1964年、愛知県生まれ。北京大学中退。雑誌記者などを経てフリージャーナリストに。『龍の伝人たち』で第1回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『中国の地下経済』(文春新書)、『平成海防論』(新潮社)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)などがある

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