訪米した温家宝首相は、9月23日の国連総会で、領土問題では「屈服も妥協もしない」と宣言しました。一方、米国が台湾に武器の売却を決めたことで中断していた米中の軍事交流では、再開に向けゲーツ米国防長官の訪中を招請。オバマ米大統領との会談では、米国が望む人民元の対ドル相場切り上げで、改革を進める意欲を表明しました。

 思い返せば、尖閣諸島の問題が起こるまでは、東アジアでは米中の対立が最大の懸案でした。その米国に頭を下げ、人民元や軍事交流の問題で譲歩することは、中国にとっては外交的な敗北ですし、国際競争力が低下して、経済的な損失も招きかねません。

 そうであっても、米国から日本に働きかけてもらって早く船長を釈放させ、国内の火種を消すほうが望ましいというのが、中国政府の判断だったのです。

 今回、レアアース(希土類)の輸出が停滞したことにも、「経済を人質に取るのか」と批判が集まりました。日本が得意な自動車や家電の生産に欠かせない資源で、中国が生産量の97%を占めているためです。

 ただ、停滞が中国政府の判断だったのか、私は疑念を抱いています。中国政府はレアアースが必要な外国企業を国内に呼び込み、投資と雇用の創出、技術の移転を狙っていたからです。
「レアアースが安定的に供給されるなら、中国へ工場を移そうか」

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