新たな年が始まりました。
日本の伝統文化に最も親しめるお正月は、神様を身近に感じる機会でもあります。
そこでご紹介したいのが、古くから伝わる「月待信仰」です。
なかでも、月の模様が仏様に見えたり、月が三つに見える三体月の伝承が伝わる霜月三夜の二十三夜は、江戸時代から高い人気を誇っていました。
── 明日は旧暦11月23日。月待信仰のなかでもとくに人気のある二十三夜待です。
このおめでたい時期に、月の御利益にあやかってみませんか。

真夜中に登ってくるお月様。二十三夜にどんな願いを込めますか……?
真夜中に登ってくるお月様。二十三夜にどんな願いを込めますか……?

月を拝むのは十五夜だけではなかった!

月の満ち欠けは、まず新月(まったく月が見えない状態)からどんどん月が膨らみ、半月(上弦の月)になり、そして満月になっていきます。
そして、満月を過ぎると月は少しずつ欠けていき、半月(下弦の月)に。
さらに新月に向かって月は細く細くなっていきます。この月のサイクルを1カ月にして暦を作ったのが、旧暦です。
月は29.53日かけて満ち欠けを繰り返すのです。
旧暦では、新月が1日で、満月が15日。下弦の月は23日になるのですね。このことから、昔の人は月を見るだけで、今日が何日か分かったといいます。
農耕カレンダーや生活リズムも月によって決められるため、月は豊穣の神や神秘の対象として崇められることも多かったのです。
今では、月を拝んだり観賞する風習は、中秋の名月(十五夜)のみとなりましたが、月が暮らしともっと密接だった頃は、十三夜、十五夜、十七夜、二十三夜、二十六夜など、それぞれの月齢に対する「月待信仰」が盛んに行われていました。
なかでも、全国各地で人気だったのが「二十三夜待ち」。とくに明日1月2日(旧暦11月23日)を大切にする風習が広くあったのですね。
二十三夜の月、つまり下弦の月というのは、夜中に東の空からのぼってきます。
人々は「講」という集団を作り、その仲間で飲食をしながら月の出を待ち、月が現れると、それを見て拝んだといいます。
ともに飲み、語らいながら、無病息災ならず安産祈願を行い、皆で月の出を待つ時間は、仲間の和を確認する大切なひとときでもあったのでしょう。

見た者は不思議な力を得たという「三体月」

旧暦11月23日の月には不思議な話があります。
月の模様が仏の姿に見えるので、念仏を唱えながら拝んだ地域があったり、わずかではありますが、月が三つに分かれて三体の神に見えるという伝承もあるのですね。
月が三つに見えることを三体月と言います。これは架空の話ではなく、実際に起こった貴重な現象なのです。
三体月の伝説で有名なのが野地方です。
熊野本宮観光協会HPによると、熊野三山で修験者が、山の端からのぼる三体の月を見て、神変不可思議な法力を得た、という伝説です。
月が三つに見えるのは、空気の寒暖差が生み出す蜃気楼のような現象といわれ、非常に珍しく滅多にお目にかかれるものではありません。
しかし、それだけにロマンも大きく、現在でも12月中旬〜1月下旬に三体月観月会が行われているといいます。
二十三夜の月は夜更けにのぼるので、見る機会は少ないと思いますが、神々しい光を放つ、美しい半月です。
── 2016年を迎えたばかりの明日、神様を身近に感じるお正月に、月の光から新しいパワーを得てみてはいかがでしょう。
参考 Newtonムック「38万キロ彼方のフロンティア 月世界への旅」(ニュートンプレス)

月待ちが行われた後に供養として建てられた、各地に残る二十三夜塔
月待ちが行われた後に供養として建てられた、各地に残る二十三夜塔