グルメ大国ニッポン、今でこそ見たことのない食べ物を映画の中で発見する事は少なくなりましたが筆者が映画館に足繁く通っていた80年代は、まだコンビニもまばら、イタリア料理といえばスパゲッティミートソース!そんな時代でした。映画の中の未見の新フードに心躍らせたものです。食欲の秋、映画から火がついた食ブームに注目してみました。

●1982年公開「E.T.」。今やすっかり日本に根付いた2つのフードのブームのきっかけに

誕生日などの特別な日はもちろん、ちょっとしたイベント、はたまた今日は疲れたから夕飯はデリバリー…と日本の食生活とはきってもきれない食文化となった「デリバリー」。それまでも日本には「出前」という文化がありましたがバリエーションは少なく、お蕎麦や丼物等いわゆる「店屋物」と呼ばれ、お母さんの「手抜き」のイメージが付きまとい、こっそり頼んでいたイメージ。もちろんお誕生日会のメイン料理(お寿司の出前は別ですが)になることなどありませんでした。
そのデリバリーの元祖といえば焼き立てのピザですね。日本で初めてピザのデリバリーが始まった1985年当時は、おしゃれな出前としてこぞってみんなが飛びつきました。スタート当初はまだ東京都心の一部にしか店舗が無かった為、皆がこの「出前」に憧れたほど。

筆者は当時、まだ学生でしたが、都心に住む友人宅で初めて宅配ピザを食べ感激したのを覚えています。下町育ちの筆者は、さらに都会に憧れたものです。と、同時にある映画の一場面を思い出した事を鮮明に記憶しています。それは「E.T.」(1983年公開)の冒頭のシーン。主人公の小学生エリオット君の家庭はシングルマザーのお母さんと兄と妹の4人家族。そこへ兄の友人達が遊びに来ていてゲームに興じています。背伸びしたい年頃のエリオット君はなんとかそのゲームに加わりたいのですが入れてもらえません。兄たちがピザを注文しろ、と命令。さすればゲームに入れてやると。そしてテイラー家の入口に一台の小型セダンが到着。そのセダンがピザの宅配車でピザが届けられる、というシーンです。筆者はこのちょっとした場面に様々な思いを抱きました。おしゃれな服装で出勤するシングルマザー・郊外の大きな住宅の広い広いリビングルーム・おしゃれなピザをサラッと頼む自分と同年代の中学生達・出前も車というスケールの大きい(!?)クルマ文化…アメリカ文化にどっぷりと憧れてしまうきっかけとなりました。

同時期に日本で同じことを考えていた私より年上の青年は、すぐさま行動に移したようです。彼はその後、今では誰もが知る宅配ピザチェーンのオーナーになりました。彼は成功をおさめた後、インタビューでこう答えています。「『E.T.』を見て初めてアメリカの宅配ピザを知り衝撃を受けた。日本でも必ずブームが来る!と思い宅配ピザ事業を始めた。」と。ひょっとしたら成功のきっかけをドラマティックにしたい後付けのエピソード(!?)かもしれませんが筆者は信じます。あのシーンに強烈な印象を持ったティーンエージャーが当時日本に大勢いたのは事実なのですから。
「E.T.」には、もう一つ食にまつわるエピソードが。それはキャンディコーティングされたチョコレート。エリオット君が隠れているE.T.を誘い出す為の食べ物として出てきます。当初スピルバーグら製作スタッフ達はM&M's社に商品提供を依頼しますが、 同社は拒否。仕方がないので、ハーシー社に依頼、同社のチョコレートが映画の中に登場しました。まだ映画のタイアップ効果が世に認識されていなかった時代。ハーシー社チョコレートは爆発的にヒット、莫大な利益を生みました。それを知って悔し涙を流したのはもちろんM&M's社、当時の担当者がクビになったとかならないとか!?

良くも悪くもこの頃からなんですね、映画のタイアップ熱に火が付いてしまったのは。大人になりこのエピソードを知った筆者はあのチョコレートがM&M'sでなかったのが意外な気もしましたが、今ではM&M'sの方が有名ですね。失敗に学びスポンサー活動を活発にさせたのかもしれませんね。

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