「サクラサク」。
桜の花が咲くめでたい時に、志望校合格を伝える表現として、慣れ親しんだこの言葉……。
日本人にとって、「春」の時季に行われる入学・卒業が定着していますが、この制度は国際的に見ると、かなり少数派なのです。
そして今、国際的スタンダードである秋を新学期とする教育制度に日本も合わせていく、そんな動きが活発になってきています。
しかし、事は容易ではなく、春から秋に移行することには様々なメリット・デメリットが考えられます。
それは一体どんなものなのでしょうか?

ひょっとしたら、「咲き誇る桜の木をバックに入学式」が見られるのも今のうち?
ひょっとしたら、「咲き誇る桜の木をバックに入学式」が見られるのも今のうち?

世界の新学期事情

大学入学の場合、世界では9月に新学期を迎えるパターンが多数を占めています。
国際的な名門大学を有する国であるアメリカ、イギリスをはじめ、スペイン、フランスなど欧州各国、さらにアジアでは、中国も9月入学を実施しています。
日本も明治時代の初めまでは、9月入学を採用していましたが、政府の会計年度に合わせて4月スタートが一般的になり、国からの補助金を必要とする大学は順次、4月始まりを実施していくようになりました。

国際社会と歩調を合わせられる「秋入学のメリット」

東京大学は2012年に「秋入学を検討する」と発表しましたが、結果的に様々な事情から秋入学の実施は見送られることになりました。日本の大学の最高峰である東京大学が先陣を切って「秋入学」にこだわったのには、どんな背景、そして、どんな目論見があったのでしょう?
背景のひとつとして、近年、大学においても企業においても「グローバル化」が声高に叫ばれている点があります。
世界の潮流に歩調を合わせるためには、海外との活発な人材交流が必要不可欠です。
そうした点から、世界の主流「9月入学」に合わせることで、下記のようなメリットが考えられたのです。
● 冬の一番寒い時季の入試を避けられる
● 大学側にとっても、グローバルな視点や、学生目線で、学内改革を実行できる
● 交換留学がしやすくなる、
● 学生はもちろん、教職員にとっても国際交流が活発になる
● 世界の優秀な頭脳を受け入れやすくなる体制が整うことで、日本の国際化が進む
● 企業の新卒採用が多様化する
● 大学卒業から就職するまでの半年間(ギャップターム)に、様々な有意義な体験ができる

ギャップタームを否定的にとらえる「秋入学のデメリット」

メリットとは逆に、秋入学実施を阻むものとして最も大きなものが「就職までの空白期間(ギャップターム)」でした。
現在、多くの企業が新卒採用を春に実施していることから、今のままでは高校から大学入学までの半年間はもちろん、大学卒業から就職するまでの間にも、半年の空白期間が生じてしまうのです。
このギャップタームを、ボランティア活動、短期留学、インターンシップ、資格・語学の習得など、有意義な活動に充てることができるメリットを重視した意見もある一方、下記のような声もあがっています。
●日本古来の「春入学」を変えるには、様々な面との調整が必要
● 大学卒業後も無収入である子どもを養うには、親の負担が大きすぎる
● 短期とはいえ、空白期間の留学は親への負担が大きい
● 長期の空白期間で方向整を見失い、学生自身が何もしなくなってしまう可能性も
● ギャップタームを過ごす学生の受け皿が、社会的に整っていない
● 一般企業への就職はもちろん、国家試験にも影響が出てくる
など……、不安要素を重視する声も多くあるようです。

将来、日本でも「秋入学」=「グローバル化」は実現する?

結果、秋入学を見送った東京大学ですが、それに替わる案として2015年度末までに「4学期制」を導入する案を発表しました。この案では、学期ごとに単位を取得できるうえ、留学がしやすい環境が整えられるメリットがあります。
他の有名私立大学も東京大学同様、押し寄せるグローバル化の波を見据え、「4学期制」導入に力を入れています。
これらの取り組みは、秋入学も視野に入れての第一ステップといったところのようです。
ただ、真のグローバル化をめざすには、入学時期の変更だけでは推進できないこともあるでしょう。秋から就職できる企業があるかなどの社会的バランスとの整合性や、学則・カリキュラムの大幅改編、留学にかかる費用増など、入学時期そのもの以外の事柄も同時に整えていかなければならない必要が生じます。

こうした多様な事情を背景に、現在も「秋入学」への移行について、多種多様な議論が交わされています。
将来的に日本の入学・卒業時期がいつになるかは不透明ですが、日本の人が慣れ親しんできた伝統的風景「咲き誇る桜の木をバックに入学式」も、いずれは「紅葉をバックに入学式」が、スタンダードになるかもしれませんね。