まだ寒さが残りつつも、雲も雪より雨を降らせ、積もった雪も解けるようになる頃…それが二十四節気「雨水(うすい)」です。
今年(2015年)は、新暦の2月19日があたります。この日の持つ意味、その潤いがもたらすさまざまについてお話しましょう。

潤う山と育まれる命のはじまり

『雨水』の頃になると、少しずつ雪が解け始めたり、雪ではなく雨が降るようになる…。
枯れていた土が潤いを取り戻し、その水が山の土を柔らかくし、川へと流れ、海へ辿りつく。
そうして、草木を始めとした命が吹き返すのを助けます。
二十四節気を三つに分けた七十二候の初候『土脈潤い起こる(どみゃくうるいおいおこる)』が全てを表現していると言えるでしょう。
また、一年中食べている野菜に『きゃべつ』がありますが、この時期に収穫するものを『春きゃべつ』と言い、冬の土の養分をしっかり含んで、一年の中で一番甘い味を醸し(かもし)出すのです。
冬野菜が苦味で栄養を表わしていたのに比べて、春の味は甘味が特徴となるわかりやすい一例です。

雨水の頃の季語…「藍蒔く(あいまく)」

藍染(あいぞめ)の染料となる「蓼藍(たであい)」は、二月に種を蒔きます。主な産地は四国の吉野川沿岸です。
四国には、藍染の反物に『阿波しじら織』という織物があります。江戸時代の庶民が絹織物を着られなかったことから綿で織られた反物です。着物に仕立てても、浴衣に仕立てても着心地がよく、藍色に様々な色が織り込まれた縞模様や格子模様がモダンでもあり、懐かしみも感じます。最近では小物なども作れていて、手に取りやすくなっています。
化学染料に押されて、自然の染物は少なくなってきていますが、できればこの先の世代にも伝承していきたいものですね。
春の声を聞いてすぐに種を蒔き、育った葉から染料を抽出し、糸を紡ぎ、反物(布)になる。自然の恵みを纏う・使う、ということは、この上ない贅沢ではないでしょうか。

この頃にしたいこと、キーワードは「地に足」

種を蒔くことに現れているように、雨水の時期は農耕を始める一つの目安とされていました。寒の中ごろから立春までは冬土用があり、土を触ることを忌まれていましたが、立春から二週間ほどを過ぎて、土に潤いが戻り、やっと土に手を触れることができるようになるのですね。
また、春めくこの頃は江戸時代から『お伊勢参り』が盛んにおこなわれていたようです。雪や北風に足元を止められる心配が少なくなり、歩きやすくなることが理由とされていますが、神様にお詣りするという一大イベントを本格的な稲作の始まる前に…ということもあったのではないかな…と思います。両方とも、「地に足をつけて」行うことであるのも不思議な繋がりです。
そして、日本の四季には、いつも五穀豊穣の祈りが人と寄り添っている、そう感じる節目です。