大学受験にTOEFLを導入しようという動きが出てきている。早稲田大学国際教養学部の池田清彦教授は、これに対して「かなりあきれた」という。

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 自民党教育再生実行本部が今年の4月、大学受験にTOEFLを導入することを柱とする提言を行ったと聞いてかなりあきれたが、5月1日付の朝日新聞で、自民党教育再生実行本部長の遠藤利明衆議院議員と、反対論者の江利川春雄和歌山大学教授の論争を読んでかなり笑えたので感想などを記しておきたい。

 TOEFLは日本などの非英語圏から米・英などの英語圏の大学に入学する際に、大学の授業についていけるかどうかを判定する指標として開発されたもので、話す聴くだけでなく長文読解力も要求される。現在は主にTOEFLiBTというコンピュータを使った方式が主流で満点は120点だ。私の勤務する学部では日本語が母語の学生は一年間の海外留学が必須だが、さすがにiBTが45点以下だと留学は無理なようである。すこしまともな大学に留学しようとするとiBT80-90点以上は必要である。

 朝日新聞の論争を読むと、推進派の頭目である遠藤議員はTOEFLは受けたことがなく、受けて10点ぐらいだろうと公言しておられるが、そういう人がTOEFL導入を推進しようとするパトスはどこからくるのだろうか。不思議なことに、英語を話せる教育を学校現場に導入しようという議論に賛成の人は、総じて英語が苦手で、反対の人は総じて英語が上手い。

 遠藤議員は、中学高校で6年間英語を学んだのに英語が使えないのは、学校の英語教育が悪いせいだと言いたいようだが、論争相手の英語教育学が専門の江利川教授の言うように、学校教育だけで英語が話せるようになると思うのは幻想である。「うちの子が勉強ができないのは先生の教え方が悪いせいだ」はモンスターペアレントの口ぐせだが、勉強ができないのはアンタの子どもがアホなせいに決まっている。

 教育のやり方を変えれば自動的に英語ができるようになるということはあり得ない。学校など行かなくともその気になれば独学で英語ぐらい喋れるようになるさ。それに英語など喋れなくとも衆議院議員が務まることは遠藤議員自らが証明しているわけだから、日本で暮らすのに英語は不要ではないですか。

 もしかしたら、TPPに参加して、将来の日本は今以上にアメリカの植民地になるのだから、植民地で働く労働者は英語ぐらいできないと雇ってもらえないよ、との親切心で言っているのかもしれない。わかったぞ。英語のできない日本人は、労働者にならずに衆議院議員になればいいってことだな。

週刊朝日 2013年5月31日号