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第19回 イーグルス、『ホテル・カリフォルニア』が生まれるまで

文・大友博

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 本連載14回目でも書いたことだが、イーグルスは、1973年発表の2作目『デスペラード』からドン・ヘンリーとグレン・フライを中心にした態勢を明確な形で打ち出している。とりわけヘンリーはバンドの頭脳となり、彼の特徴的な声はバンドの顔となった。

 やや意外な話かもしれないが、ファースト・アルバムで彼がソングライターとして関わったのは、リード・ヴォーカルも担当した《ウィッチー・ウーマン》だけ。ドラムスとコーラスに専念していたという印象で、実際、『デスペラード』制作途中にイギリスで収録されたライヴ映像を観ると、彼やフライよりも場数を踏んでいたバーニー・リードンとランディ・マイズナーの自信に満ちた表情が目立つ。しかし、開拓時代のアウトローとロックンローラーのイメージを重ねあわせて描いたコンセプト・アルバム『デスペラード』によって、ドンを中心に新たな一歩を踏み出した彼らは、その後、音楽性や編成面での変化を繰り返しながら、一気に巨大化していく。その第一歩が、74年春発表の3作目『オン・ザ・ボーダー』だった。

 イーグルスの最初の2作品は、ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンとの仕事で経験を積み、着実にその評価を高めていったクリエイター、グリン・ジョンズのプロデュースのもと、イギリスのスタジオで収録されている。その顔合わせは実際に大きな成果を生んだわけだが、ヘンリーとフライは「自分の音」にこだわるジョンズに反発を感じるようになってもいた。結局、のちに全米ナンバー・ワンを獲得する《ザ・ベスト・オブ・マイ・ラヴ》など2曲を録音した時点でイーグルスは彼と決別し、B.B.キングの《ザ・スリル・イズ・ゴーン》やジェイムス・ギャング(ジョー・ウォルシュのバンド)などを手がけていたビル・シムズィクをプロデューサーに迎え、『オン・ザ・ボーダー』を完成させた。このとき、《オールレディ・ゴーン》など2曲でハードなギターを弾いたのが、フロリダ出身のドン・フェルダー。当初は、ゲスト扱いということだったが、このセッションはオーディションも兼ねていたようで、発表時点で彼は正式メンバーとしてクレジットされている。

 トリプル編成となったイーグルスは、翌75年発表『ワン・オブ・ディーズ・ナイツ』で音楽的にはさらにハード名方向性を打ち出し、全米1位を記録したタイトル曲での革新的なソロによって、フェルダーは新たなギター・ヒーローとしての地位を確立した。ハリウッド周辺の風俗をシニカルな視線で描いた《ライイン・アイズ》とマイズナーの高音を生かした《テイク・イット・トゥ・ザ・リミット》も大ヒットしている。

 しかし、こういったダイナミックな変化のなか、アコースティック系弦楽器の名手で、もっともカントリー的指向の強かったリードンが脱退。ビル・シムズィクとの関係もあり、ツアーなどで親交を深めていたジョー・ウォルシュが加わっている。76年春に実現した初来日公演で武道館などのステージに立ったのは、その新生イーグルスだった。

 イーグルスの最高傑作『ホテル・カリフォルニア』が発表されたのは、この年の暮れ。アメリカ建国200年となったこの年、ヘンリーを中心にした彼らは、完璧な音をつくり上げるとともに、深い部分で、カリフォルニアを一つのメタファーとして、現代文明の過ちを指摘し、環境問題など将来に向けた懸念を表明している。その徹底した文明批評の視線は、すでに書いたとおり、ヘンリー・デイヴィッド・ソロウから受け継いだものだった。

 76年といえば、日本ではあのPOPEYEが創刊された年でもある。もちろんその雑誌だけの責任ではないわけであり、こういう書き方をすると関係者の方々に怒られてしまうかもしれないが、当時の日本ではカリフォルニアの文化や現象が表面的な風俗の部分だけで語られ、話題にされていたような気がしてならない。そして、そういった文脈のなかで紹介されることの多かったイーグルスは、しかし、その時点ではもうずっと先に進んでいたのだ。 [次回5/25(水)更新予定]


(更新 2016.5.18 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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